はじめに:ローファイヒップホップとは
ローファイヒップホップ(Lo-Fi Hip Hop)は、あえて低品質(Lo-Fidelity)なサウンドを志向する、リラックスしたビートミュージックです。YouTubeの「lofi hip hop radio – beats to relax/study to」に代表される、24時間配信のストリーミングチャンネルが世界的に人気を集め、2020年代のDTMにおける最もアクセスしやすいジャンルの一つとなりました。
ローファイヒップホップの特徴:
- BPM 70〜90のゆったりしたテンポ
- ジャズやソウルからのサンプリング/インスパイア
- ビットクラッシャー、テープサチュレーション、ビニルノイズなどの「劣化」エフェクト
- シンプルな構成(ドラム+ベース+コード+メロディの4〜5トラック)
- 歌なし(インストゥルメンタル)が主流
楽器数が少なく、完璧を求めないジャンルなので、DTM初心者が最初に1曲完成させるのに最適なジャンルです。
ローファイヒップホップの楽曲構成
| セクション | 小節数 | 内容 |
|---|---|---|
| イントロ | 4〜8小節 | ビニルノイズ+ピアノのみ、またはドラムなしのコード |
| メインループA | 8〜16小節 | ドラム+ベース+コード楽器(フルビート) |
| ブレイク | 4小節 | ドラムを抜く、またはハーフタイムに |
| メインループB | 8〜16小節 | メロディ楽器追加、バリエーション |
| アウトロ | 4〜8小節 | 要素を徐々に減らしてフェードアウト |
ローファイヒップホップは1〜2分の短い曲が一般的です。3分以上にする必要はありません。
Step 1:コード進行を決める
ローファイヒップホップのコード進行は、ジャズのコード(テンションコード)がベースになっています。7thや9thを加えることで、おしゃれで憂いのあるサウンドが生まれます。
定番のコード進行:
| 名称 | コード進行 | 雰囲気 |
|---|---|---|
| II-V-I ジャズ定番 | Dm7 → G7 → Cmaj7 | クラシックなジャズ感 |
| Just the Two of Us | Fmaj7 → E7 → Am7 → C7 | おしゃれで切ない |
| チル進行 | Am9 → Dm9 → Gmaj7 → Cmaj7 | 浮遊感のあるチルサウンド |
| マイナーブルース風 | Cm7 → Fm7 → Gm7 → Fm7 | メランコリックで深い |
| ネオソウル風 | Bbmaj7 → Am7 → Abmaj7 → Gm7 | 温かく優しい |
Step 2:ドラムパターンを打ち込む
ローファイヒップホップのドラムは、Boom Bap(ブーンバップ)をベースにした、シンプルでスウィング感のあるパターンが基本です。
基本ドラムパターン(BPM: 80)
キック:1拍目と3拍目(+裏拍にゴーストキック)
スネア:2拍目と4拍目(バックビート)
ハイハット:8分音符で刻む。裏拍のベロシティを60%程度に落とす
ドラムサウンドの特徴
- キック:SP-1200やMPC風のローファイなキック。軽いディストーションとローパスフィルター
- スネア:ヴィンテージサンプラー風。ビットクラッシャーで粗さを加える
- ハイハット:クローズとオープンのミックス。テープサチュレーションで丸く
- パーカッション:シェイカー、リムショット、フィンガースナップなどを追加で質感UP
スウィングの設定
ローファイヒップホップのグルーヴの鍵はスウィングです。DAWのスウィング機能で60〜70%程度のシャッフルをかけることで、独特の「揺れ」が生まれます。
Step 3:ベースラインを作る
ベースはエレキベース(フィンガー奏法)のシンプルなパターンが定番です。コードのルート音を中心に、オクターブや5度を交えます。
ポイント:
- 音数は少なめ(1小節に2〜4音)
- ベロシティは80〜100程度で控えめに
- テープサチュレーションで温かみを加える
- ローパスフィルターで高域を削り、まろやかに
Step 4:コード楽器を打ち込む
ローファイヒップホップのコード楽器は、以下の選択肢があります。
| 楽器 | 特徴 | おすすめ音源 |
|---|---|---|
| エレクトリックピアノ(Rhodes/Wurlitzer) | 最も定番。温かくメロウな音色 | Keyscape、Lounge Lizard、Scarbee Mark I |
| アコースティックピアノ | テープサチュレーションで劣化させて使う | Spitfire LABS Soft Piano(無料) |
| ギター(クリーン) | ジャズギター風のコードカッティング | Ample Guitar、Orange Tree Samples |
| シンセパッド | アンビエント感を加える。Junоコーラス系 | TAL-U-NO-LX、Vital |
Step 5:ローファイエフェクトを加える
ここがローファイヒップホップのサウンドデザインの核心です。「きれいな音をわざと劣化させる」ことで、ヴィンテージ感とノスタルジックな雰囲気を作ります。
ビットクラッシャー
デジタル的に音質を下げるエフェクト。サンプルレートとビットデプスを下げることで、SP-1200やMPCのようなローファイサウンドに。
- ビットデプス:12〜16bit(元が24bitの場合)
- サンプルレート:22kHz〜33kHz(控えめに)
- ドラムやピアノにかけると効果的
テープサチュレーション
アナログテープレコーダーの温かい歪みを再現。高域が丸くなり、低域に太さが加わります。
- おすすめプラグイン:Aberrant DSP SketchCassette(無料)、RC-20 Retro Color、Izotope Vinyl(無料)
- ドライブを軽くかける(20〜40%)
- WowやFlutterでテープの揺れを加える
ビニルノイズ / テープヒス
レコードの「プチプチ」ノイズやテープの「サー」というヒスノイズを追加することで、一気にヴィンテージ感が出ます。
- おすすめプラグイン:iZotope Vinyl(無料)、RC-20 Retro Color
- 音量は-20〜-30dB程度。さりげなく聞こえるレベルに
- 楽曲全体の最初から最後まで流し続ける
ローパスフィルター
高域をカットして、こもったヴィンテージサウンドに。マスタートラックに軽くかけるだけでも効果的です。
- カットオフ周波数:8〜12kHz
- スロープ:12〜24dB/oct
コーラス / フランジャー
レートを遅く、デプスを浅くかけると、テープの微妙なピッチ揺れを再現できます。
Step 6:メロディとフィルを追加
メロディ楽器として以下がよく使われます。
- サックス:ジャジーな雰囲気の定番。レガートな長いフレーズ
- フルート:軽やかでチルな印象
- ギター(クリーン):アルペジオのメロディ
- ボーカルチョップ:ボーカルサンプルを細かく切ってリズミカルに並べる
チョップサンプリングの基本
ローファイヒップホップの伝統的な手法が、既存のレコード(ジャズ、ソウル)からフレーズを切り出して再構成する「チョップサンプリング」です。
手順:
- サンプル素材を用意する(Splice、Loopcloud、フリーサンプルパック)
- DAWに取り込み、BPMを楽曲に合わせる(タイムストレッチ)
- フレーズを小節単位〜拍単位に切り分ける(チョップ)
- 順番を入れ替えたり、逆再生したり、ピッチを変えて新しいフレーズを作る
- テープサチュレーションやビットクラッシャーをかけて質感を統一
注意:著作権のある楽曲をそのまま使用すると法律上の問題があります。ロイヤリティフリーのサンプルパックを使うか、完全にオリジナルで演奏しましょう。
おすすめプラグイン&サンプルパック
プラグイン
| プラグイン名 | 用途 | 価格 |
|---|---|---|
| RC-20 Retro Color (XLN Audio) | オールインワンのローファイエフェクト | 約15,000円 |
| iZotope Vinyl | ビニルノイズ、ワープ、ダスト | 無料 |
| Aberrant DSP SketchCassette | カセットテープシミュレーション | 無料 |
| Spitfire LABS Soft Piano | ローファイ向きの柔らかいピアノ | 無料 |
| TAL-U-NO-LX | Juno系シンセパッド | 約9,000円 |
サンプルパック(ロイヤリティフリー)
- Splice:月額制サンプルサービス。ローファイ系の素材が豊富
- Looperman:無料のループ共有サイト。「lofi」「jazz」で検索
- Producer Crate:無料〜有料のサンプルパック。ドラムキットが充実
ミックスのポイント
- 全体にローパスフィルター:マスターに10〜14kHzのローパスを軽くかける
- リバーブは深めに:Plate or Hallで1.5〜3秒。チルな空間感を
- ステレオは控えめに:モノに近い方がヴィンテージ感が出る
- 音圧を上げすぎない:ダイナミクスを残し、ラウドネスは-14〜-12 LUFS程度に
- ベースはモノ:低域のステレオ処理は避ける
まとめ:ローファイヒップホップは「不完全さ」を楽しむ
ローファイヒップホップの最大の魅力は、完璧でなくていいということです。むしろ多少のズレや歪み、ノイズが味わいになります。DTM初心者が「1曲完成させる」体験をするのに、これほど最適なジャンルはありません。
- ジャズコード進行で4小節のループを作る
- シンプルなBoom Bapドラムを打ち込む
- テープサチュレーションとビニルノイズをかける
- 2分以内にまとめて完成
まずは気軽に1曲作ってみましょう。
ローファイヒップホップはDTM入門に最適なジャンルです。4小節のループさえ作れば曲として成立しますし、「あえてキレイにしない」というルールが初心者の心理的ハードルを下げてくれます。レッスンでは最初の1曲をローファイで作ることをおすすめしています。ジャズコードの押さえ方から一緒にやっていきましょう。




