近年、藤井風やVaundyの台頭もあり、日本のポップスにもR&Bやネオソウルの要素が色濃く反映されるようになりました。「おしゃれなコード進行の曲を作りたい」「聴いていて心地いいグルーヴを打ち込みたい」——そんな方にとって、R&B/ネオソウルはまさに理想のジャンルです。川口駅徒歩2分のコアミュージックスクールでもR&Bやネオソウル系の楽曲制作を学びたいという相談が増えています。この記事では、DTMでR&B・ネオソウルを作るために必要なコード進行、リズム、音色選び、MIXのコツまで、すべてを網羅的に解説します。
R&Bとネオソウルの違いを理解する
まず制作に入る前に、R&Bとネオソウルの違いを明確にしておきましょう。両者は近縁のジャンルですが、サウンドの方向性が異なります。
| 項目 | R&B(モダン) | ネオソウル |
|---|---|---|
| BPM | 70〜110 | 65〜95 |
| コード | 7thコード中心、トラップ的ミニマル進行も | 9th/11th/13thテンション多用、複雑な進行 |
| リズム | 808キック+タイトなハイハット | スウィング強め、生ドラムに近い質感 |
| ベース | 808サブベース or シンセベース | エレキベース(フィンガー or スラップ) |
| 鍵盤 | パッド系シンセ、プラック | ローズ、ウーリッツァー、クラビネット |
| 代表アーティスト | SZA, The Weeknd, Daniel Caesar | D’Angelo, Erykah Badu, Tom Misch |
| 近い日本人 | Vaundy, SIRUP, 藤井風 | Nao Yoshioka, Ovall, 関口シンゴ |
どちらのスタイルで作るかによって、使う音色やリズムの打ち方が大きく変わります。この記事では両方のアプローチを解説していきます。
R&B/ネオソウルのコード進行パターン
R&Bとネオソウルの最大の魅力は、コード進行の美しさにあります。ポップスやロックでは使われにくい複雑なコードが、このジャンルでは「当たり前」として登場します。ここでは実践的なコード進行パターンを紹介します。
基本:7thコードを土台にする
R&B/ネオソウルでは、トライアド(三和音)をほとんど使いません。すべてのコードに7thを付けるのが基本です。Cmaj7、Dm7、Em7、Fmaj7、G7、Am7——ダイアトニックコードをすべて7thにするだけで、一気にR&Bの響きになります。
パターン1:IVmaj7 → V7 → IIIm7 → VIm7(王道進行のR&B版)
Key=Cの場合:Fmaj7 → G7 → Em7 → Am7
日本のポップスでおなじみの王道進行(4536進行)を7thコード化したものです。これだけでJ-POPの雰囲気からR&Bに一気に近づきます。ボイシングは密集ではなく開離(オープンボイシング)にすると、さらにおしゃれな響きになります。
パターン2:IIm9 → V13 → Imaj9(ツーファイブワンの拡張)
Key=Cの場合:Dm9 → G13 → Cmaj9
ジャズの基本であるII-V-Iをテンションコード化したパターンです。ネオソウルではこの進行を「ゆったり」と鳴らすのがポイント。テンポBPM=75程度で、各コードを2小節ずつ伸ばすと雰囲気が出ます。G13のボイシングは、ルートG+3rdのB+7thのF+13thのEを重ねると非常にリッチな響きになります。
パターン3:Imaj7 → #IVm7(b5)(リディアンの借用)
Key=Cの場合:Cmaj7 → F#m7(b5)
ネオソウルでよく聞かれる「浮遊感」のあるパターンです。F#m7(b5)はCリディアンスケールから借用したコードで、半音上がる#IVが独特の「きらめき」を生みます。D’AngeloやErykah Baduの楽曲で頻出します。
パターン4:ディミニッシュ経過コード
Key=Cの場合:Cmaj7 → C#dim7 → Dm7 → D#dim7 → Em7
ダイアトニックコード間にディミニッシュを挟むクロマチックアプローチです。半音ずつルートが上昇することで、スムーズかつドラマチックな進行になります。ゴスペルやソウルの伝統的な手法ですが、ネオソウルでも頻繁に使われます。このとき、ディミニッシュコードは短く(2拍程度)通過させ、目的のコードに解決させるのがコツです。
パターン5:マイナー系R&B進行
Key=Amの場合:Am9 → Gmaj7/B → Cmaj7 → Fmaj7 → Bm7(b5) → E7(b9)
SZAやH.E.R.のようなダークでメランコリックなR&Bに最適な進行です。Bm7(b5)→E7(b9)→Am9のマイナーII-V-Iで自然に頭に戻ります。E7(b9)のb9thがマイナーの暗さを強調し、Am9への解決に「ゾクッとする美しさ」を与えます。
ボイシングのコツ
コード進行が同じでも、ボイシング(音の積み方)で印象は大きく変わります。R&B/ネオソウルで重要なボイシングのポイントは以下の通りです。
- ルートを左手に任せ、右手はテンションを含む上部構成音を弾く:ルートとテンションを離すことでコードの響きが開放的になります
- 共通音を保持する(コモントーン):コードが変わっても一部の音を同じ位置に残すと、なめらかなつながりが生まれます
- トップノートを意識する:最高音がメロディのように動くと、コード進行自体が歌っているように聞こえます
- 4度堆積ボイシング(クォータルハーモニー):3度ではなく4度で音を積む。例えばDm11をD-G-C-Fと積むと、モダンで浮遊感のある響きになります
ドラムの打ち方:グルーヴの核心
R&B/ネオソウルにおいて、コード進行と同じくらい重要なのがドラムのグルーヴです。このジャンルのドラムは「人間くさい揺れ」が命。完全にクオンタイズされた打ち込みでは、機械的な印象になってしまいます。
スウィング設定
まず、DAWのスウィング(シャッフル)設定を調整します。R&Bでは55〜62%程度のスウィングが一般的です(50%が完全なストレート、66%が完全なシャッフル)。ネオソウルではさらに強めの60〜65%が心地よく感じられます。DAWによって設定方法が異なりますが、Logic ProではMIDIリージョンのクオンタイズ設定からSwingの値を変更できます。
キックパターン
R&Bのキックは、ヒップホップのように「ドスンドスン」と重くは鳴りません。1拍目と3拍目の「ちょっと後」に置くのが基本です。具体的には、1拍目のジャストタイミングから10〜30ms後ろにずらすと、レイドバック(後ろノリ)した気だるいグルーヴが生まれます。
ネオソウルの場合、J Dillaに影響を受けた「ドランクビート」を意識するとよいでしょう。これはキックが意図的にグリッドからずれた、酔っ払ったようなリズムです。各キックのタイミングを±15〜40msの範囲でランダムにずらし、ベロシティも80〜110の範囲で揺らします。
スネア/リムショット
R&B/ネオソウルのスネアは、2拍目と4拍目(いわゆるバックビート)に置くのが基本ですが、パワフルに鳴らすロックとは異なり、リムショットやフィンガースナップを使うことが多いです。ベロシティは90〜105程度に抑え、たまに2拍目を少しだけ早めに叩く(プッシュする)と人間らしさが出ます。
ハイハットの細かいニュアンス
ハイハットはR&B/ネオソウルのグルーヴを最も特徴づける要素です。16分音符で刻みつつ、以下のテクニックを組み合わせます。
| テクニック | 方法 | 効果 |
|---|---|---|
| ゴーストノート | ベロシティ30〜50の弱い16分を追加 | リズムに細かい「息遣い」が生まれる |
| オープン/クローズ交互 | 拍のアタマはクローズ、裏拍でオープン | ハイハットに表情がつく |
| ヒューマナイズ | タイミング±10ms、ベロシティ±15 | 機械的な均一感が消える |
| 32分ロール | フレーズの最後に2〜3発の速い連打 | フィルの代わりになるアクセント |
ベースラインの作り方
ベースはR&B/ネオソウルのグルーヴの「背骨」です。ジャンルによって使う音色が変わります。
モダンR&B:808サブベース
SZAやBryson TillerのようなモダンなR&Bでは、808サブベースが主流です。長いディケイのサイン波が低域を支え、キックと一体化したボトムを作ります。ポイントはベースのアタックをキックのアタックと同時にトリガーすること。キックが鳴るタイミングでベースのMIDIノートを置き、サスティンで次のキックまで伸ばします。ルート音を中心に、経過的にオクターブ上を使う程度のシンプルなラインが合います。
ネオソウル:エレキベース(フィンガー)
ネオソウルの場合、フィンガーピッキングのエレキベースが圧倒的に合います。生ベース音源(Spectrasonics Trilian、Ample Bass、MODO BASS)を使いましょう。ポイントは以下の通りです。
- ルートだけを弾かない:ルート→5th→オクターブ→7th→ルートのように動くラインを作る
- シンコペーション:拍のアタマではなく、16分音符1つ前(アンティシペーション)でコードチェンジのルートを弾く
- レイドバック:すべてのノートを5〜15msほど遅らせ、気だるい後ろノリを出す
- スライドとハンマリング:MIDIのピッチベンドやグリスを使い、音と音のつながりを滑らかにする
- 休符を活かす:ベースが「弾かない瞬間」がグルーヴのポケットを作る。16分1個分の空白が効く
鍵盤音色の選び方と演奏法
R&B/ネオソウルのサウンドを決定づけるのが鍵盤楽器の音色です。ここではジャンルに欠かせない3つの音色を解説します。
ローズピアノ(Rhodes)
ネオソウルの代名詞ともいえるエレクトリックピアノです。Fender Rhodes Mark Iの暖かく丸みのある音色が定番。プラグインではScarbee A-200(Kontakt)、Keyscape(Spectrasonics)、Lounge Lizard(AAS)が人気です。
音作りのポイントは、トレモロ(ステレオパンのオートパンニング)のスピードをBPMに同期させること。4分音符や付点8分音符のレートに設定すると、曲のテンポと呼吸が合い、心地よい揺れが生まれます。さらにテープサチュレーションを薄くかけるとビンテージ感が増します。
ウーリッツァー(Wurlitzer)
ローズよりもやや明るく「鳴き」のあるサウンドのウーリッツァー。Stevie Wonderの「Superstition」で有名な音色です。ファンキーなカッティングに最適で、R&Bのバッキングでコードを16分で刻む「チャカチャカ」というリフに合います。Arturia Stage-73 VやAAS Lounge Lizardに収録されています。
クラビネット(Clavinet)
パーカッシブでファンキーな音色が特徴。単音のリフやオクターブ奏法に最適です。ワウペダルと組み合わせるとStevie Wonderの「Higher Ground」のようなサウンドになります。使いすぎると曲がファンク寄りになるので、ブリッジやイントロなど部分的に使うのが効果的です。
ボーカルチョップとサンプルの活用
モダンR&Bでは、ボーカルチョップ(ボーカルの断片を切り刻んでリサンプルしたもの)が楽曲のフックとして頻繁に使われます。作り方のステップを解説します。
- 素材の準備:自分のボーカル録音、またはSpliceのボーカルサンプルパックを用意
- スライス:母音部分(「あ」「お」「う」)を中心に、100〜500ms単位で切り出す
- サンプラーに読み込み:Ableton LiveのSimplerやLogicのSamplerに読み込み、キーボードにマッピング
- ピッチ変更:半音単位でトランスポーズし、コード進行に沿ったメロディラインを打ち込む
- エフェクト処理:リバーブ(プレートorホール、長め)+ハーフスピードリバーブ+コーラス+フィルターオートメーション
- 配置:コードチェンジの直前やイントロ、ブリッジの装飾に置く
MIXのコツ:R&B/ネオソウル特有のバランス
R&B/ネオソウルのMIXは、一般的なポップスやロックとは異なるバランスが求められます。ジャンル特有のポイントを押さえましょう。
ローエンドの処理
キックとベースが同時に鳴る低域帯(40〜100Hz)の処理が最も重要です。モダンR&Bの場合、サイドチェインでキックが鳴る瞬間にベースを-3〜-6dBダッキングさせます。ネオソウルの場合は、キックのローを100Hz以下に収め、ベースの存在帯域を80〜200Hzに分けるEQ住み分けが有効です。
ボーカルの処理
R&Bボーカルの処理は、近さと温もりがキーワードです。
- コンプレッション:レシオ3:1〜4:1、アタック5〜10ms、リリース50〜100ms。ゲインリダクション-3〜-6dB程度で、ダイナミクスを残しつつ安定させる
- EQ:200〜350Hzをやや削り(モコモコ防止)、3kHz付近を2〜3dBブースト(プレゼンス)、10kHz以上をシェルフで1〜2dBブースト(エアー感)
- サチュレーション:テープサチュレーションを薄くかけ、声にアナログの暖かみを加える
- リバーブ:プレートリバーブをプリディレイ20〜40ms、リバーブタイム1.2〜2.0秒で設定。ウェット量は控えめ(15〜25%)にし、声が遠くならないように注意
- ディレイ:1/8付点のピンポンディレイを薄くかけると、空間が広がりつつR&Bらしい「漂い」が出る
全体のバランス
| 要素 | 目安レベル | パン | ポイント |
|---|---|---|---|
| キック | 0dB基準 | Center | ミックスの土台 |
| ベース | -1〜-3dB | Center | キックとの住み分けが鍵 |
| スネア/リム | -2〜-4dB | Center | ロックほど前に出さない |
| ハイハット | -8〜-12dB | L20〜R20 | 控えめだがグルーヴの核 |
| ローズ/鍵盤 | -6〜-10dB | L30〜R30(ステレオ) | トレモロのステレオ感を活かす |
| ボーカル | -1〜-3dB | Center | ベースと同等の存在感 |
| パッド/ストリングス | -12〜-18dB | Wide Stereo | 空間を埋める裏方 |
おすすめプラグインとサンプルパック
最後に、R&B/ネオソウル制作に役立つプラグインとサンプルパックをまとめます。
プラグイン
- Spectrasonics Keyscape:ローズ、ウーリッツァー、クラビなど鍵盤音色の最高峰。ネオソウルには必須級
- Arturia V Collection:DX7、Prophet、Minimoogなどビンテージシンセを網羅。R&Bのパッド作りに最適
- XLN Audio Addictive Drums 2:R&B/ソウル向けのADパックが充実。ブラシキットが秀逸
- iZotope Vinyl(無料):レコードのノイズとワウフラッターを追加。ネオソウルのLoFi感に
- Valhalla VintageVerb:プレートリバーブが美しく、R&Bボーカルとの相性が抜群
- RC-20 Retro Color(XLN Audio):テープサチュレーション、ノイズ、ワウフラッターを1台で。ネオソウルの質感作りに
サンプルパック
- Splice Sounds – KAYTRANADA Sample Pack:ネオソウル〜ハウスの汎用性の高いドラムワンショット
- Kingsway Music Library:R&Bプロデューサー御用達のサンプルライブラリ。コードループが特に優秀
- Splice – Daniel Caesar Vocal Chops:ボーカルチョップの教科書的素材
制作ワークフロー:ゼロから1曲作る手順
ここまでの知識を統合して、実際にゼロから1曲作る手順をまとめます。
- テンポとキーを決める:BPM=78、Key=Ebメジャー(R&Bで多いキー)でプロジェクト作成
- コード進行を打ち込む:Ebmaj9 → Fm9 → Gm7 → Abmaj7(I→II→III→IV)。ローズ音色で4小節のループを作る
- ドラムを打ち込む:キック、リムショット、ハイハットの順に。スウィング58%に設定
- ベースラインを追加:コードのルートを基本に、3拍目でオクターブ上に跳ぶラインを作る
- ボーカルチョップを配置:4小節目の最後に「Ah」系チョップをフィルターオートメーション付きで
- パッドで空間を埋める:ストリングスかシンセパッドをステレオワイドに薄く敷く
- 展開を作る:Aメロ(8小節)→Bメロ(8小節:ドラムパターン変化)→サビ(16小節:ハイハットを倍に)
- MIXして完成:上記のMIXガイドに従い、各要素のバランスを整える
R&Bやネオソウルは「コード理論」と「リズムの微細なズレ」の両方を理解してこそ形になるジャンルです。特にテンションコードのボイシングは、頭で理解するだけでなく「いい響き」を耳で覚えることが大切。レッスンではDAW上でコードを一つずつ確認しながら、あなたの好きなアーティストのサウンドに近づける実践的なアプローチで進めています。理論が苦手な方も安心してください。




