YOASOBIの歌い方完全ガイド|ikuraの高速ロングトーンと音程精度を身につける練習法

ボーカル

「夜に駆ける」や「アイドル」を歌ってみたいけれど、どうしても音程が外れてしまう。あの独特のロングトーンが息切れしてしまって続かない——そんな悩みを抱えるボーカリストは、少なくないはずです。YOASOBIのボーカルikuraさんの歌声は、一聴して「気持ちいい」と感じさせる圧倒的な滑らかさと、細かい音符をこなす俊敏さを兼ね備えています。しかしその歌い方は、感覚だけで真似しようとすると壁にぶつかりやすい、技術的な難しさも秘めています。

この記事では、ikuraさんの発声スタイルを「高速パッセージの処理」「ロングトーンの安定」「音程精度の向上」という三つの軸で分解し、自宅練習でも取り組める具体的なトレーニング方法を紹介します。BPMや周波数など数値も交えながら解説しますので、感覚論ではなく仕組みから理解したい方にも役立てていただけます。

YOASOBIの楽曲が「難しい」理由を構造的に把握する

YOASOBIの楽曲はComposerのAyaseさんが制作していますが、その多くがBPM140〜180台という高速テンポで書かれています。「夜に駆ける」はBPM130前後と比較的落ち着いていますが、「アイドル」はBPM157、「ハルジオン」はBPM170近くに設定されており、音符一つひとつの「賞味期限」がとても短い。つまり音程を合わせる猶予が少ないまま、次の音へ移行しなければなりません。

ikuraさんの発声の特徴:3つのポイント

  • ヘッドボイス主体の発声:胸声(チェストボイス)を使いすぎず、鼻腔から頭部にかけての共鳴を活用することで、高音域でも音が膨らみすぎず輪郭を保っています。
  • ビブラートの制御:一般的なポップスシンガーが使う「揺らし型ビブラート」とは異なり、必要な箇所にだけ短いビブラートを乗せ、それ以外はストレートなトーンを維持します。
  • 子音の明瞭さ:高速フレーズでも「か行」「た行」などの破裂音をつぶさず発音することで、歌詞の聴き取りやすさを保っています。

音域の目安

ikuraさんの音域は一般的にG3(ソ)〜C6(高いド)程度とされており、女声ミドルからハイソプラノ領域をカバーしています。特にA5(ラ)付近の高音を軽やかに出せるかどうかが、YOASOBIの楽曲を”それらしく”歌えるかどうかの分かれ目になります。自分の音域を確認するには、ピアノアプリや無料のピッチ計測アプリ(例:「Vocal Pitch Monitor」)を使って録音と照合するのが最も効率的です。

高速ロングトーンを支える「呼吸」と「支え」の仕組み

YOASOBIの楽曲で最も挫折しやすいのが「ロングトーン中に音程が下がる」現象です。これは多くの場合、横隔膜(ダイアフラム)の支えが途中で失われることで起きます。ブレスをとったとき肺にためた空気を「一気に吐く」のではなく、腹壁・横隔膜・肋間筋が連携して息の圧力を一定に保ち続けることが、安定したロングトーンの前提条件です。

腹式呼吸の「ため方」より「保ち方」を練習する

腹式呼吸そのものは多くの方が「吸うときにお腹が膨らむ」ことを理解しています。難しいのは「吐くときに腹圧を保ち続ける」ことです。以下の練習で感覚をつかみましょう。

  1. ロウソクを吹き消さない練習:口から約30cm離した位置にロウソク(またはティッシュ)を置き、炎が揺れない程度の一定の細い息を10秒間続けます。これが「支えのある息」の感覚です。
  2. 「S」音フォニクス練習:「ssssssss」と摩擦音を出しながら、10秒→15秒→20秒と徐々に時間を延ばします。途中で音が途切れたり揺れたりした時点でリセット。1日3セットを2週間続けると、多くの方が体感的な変化を感じます。
  3. BPM60のメトロノームに合わせた4拍ロングトーン:「あーーーー」と4拍(4秒)伸ばすところから始め、慣れたら8拍(8秒)、12拍(12秒)へ伸ばしていきます。

奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:

私が実際にレッスンで何度も見てきたのが、「ロングトーンを伸ばすほど音程が下がる」というパターンです。原因のほとんどは息の「吐きすぎ」で、横隔膜が途中で緩んでしまっています。S音フォニクスを使うと、お腹の壁が内側から押し返してくる感覚を確かめながら練習できるので、最初の2週間はこれだけやっていただくことも多いです。音程の話をする前に、まず「一定量の息を保ち続ける」体の使い方を優先して固めると、その後の上達が早くなります。

「夜に駆ける」サビのロングトーン分析

「夜に駆ける」の「沈んでいく」のフレーズは、BPM130に対して付点四分音符〜二分音符程度の長さでメロディが動きます。この部分はG4〜B4(ソ〜シ)の中音域で展開されますが、音量を保ちながら「のびやか」に聴かせるには、中音域でチェストボイスが重くなりすぎないようミックスボイス(ミドルボイス)への移行ポイントを意識することが重要です。女声の場合、E4〜G4付近がよく「換声点(ブレイクポイント)」として問題になります。

音程精度を上げる:ピッチ修正に頼らない練習法

DAWソフトでAuto-TuneやMelodyneを使えば録音後の音程補正は可能ですが、ライブパフォーマンスや日常の練習ではリアルタイムで音程を合わせる能力が必要です。音程精度向上のアプローチは大きく「耳のトレーニング」と「声のコントロール」の二段階に分けられます。

耳を鍛える:インターバルトレーニング

音程を外す原因の約60〜70%(一般的な音楽教室での体感値)は、「正しい音を聴き分ける力」が不十分なことにあります。楽器に合わせて単音をユニゾンで歌う練習を毎日10分取り入れるだけで、1ヶ月後の音程安定度は目に見えて変わります。

  • ピアノ(またはキーボード)で任意の音を弾く→即座に同じ音で「あ」と発声→ピアノの音と重ねて誤差を確認する
  • スマートフォンアプリ「Perfect Ear」や「Functional Ear Trainer」を使ったインターバル(音程差)当てクイズ
  • YOASOBIの曲を歌いながらピッチ計測アプリの針をリアルタイムで見る(一般的な精度±50セント以内を目標に)

声をコントロールする:フォールとターンのクセを取る

音程が外れる具体的なパターンには「フォール(音の末尾が下がる)」と「オーバーシュート(目標音より高く入りすぎる)」の二種類があります。ikuraさんのスタイルは目標ピッチへの到達がとても速く、フォールもオーバーシュートも最小限です。これを真似るには以下の練習が有効です。

  1. スタッカート練習:音符を短く切りながら歌い、各音を「ピンポイント」で出す感覚を身につける。BPM80〜100のシンプルなスケールから始めましょう。
  2. 録音→再生→比較:スマートフォンで録音し、原曲と並べて聴く。Audacity(無料DAW)のスペクトラムビューで基音(fundamental frequency)のズレを視覚化すると、どの音でピッチが外れているか一目瞭然です。
  3. 半音スライド練習の禁止期間:意図的にやるグリッサンドは表現になりますが、無意識にやってしまう「滑り込み」を矯正するには、1週間「すべての音をアタックから正確に発音する」と決めて練習します。

高速フレーズを処理する:「アイドル」の細かいメロディをこなすために

「アイドル」(BPM157)は、Aメロに16分音符が連続するパッセージがあり、これをメロディとして自然に歌うには100BPM→120BPM→140BPM→157BPMと段階的に速度を上げる「スピードビルド練習」が効果的です。楽器の世界ではポピュラーな手法ですが、ボーカルにも応用できます。

スピードビルド練習の手順

段階 練習BPM 目安の練習期間 確認ポイント
BPM 80 1〜3日 歌詞・音程を正確に把握できているか
BPM 100 3〜5日 子音をつぶさず発音できているか
BPM 120 3〜5日 ブレスの位置が崩れていないか
BPM 140 3〜7日 音程精度が維持できているか
BPM 157(原曲) 1〜2週間以上 表情・ニュアンスを乗せられているか

各段階でつっかえたり音程が崩れたりしたら、一つ前のBPMに戻ります。あせって速度を上げることが最大の落とし穴なので、「完璧に歌えたと録音で確認できた」ことを次の段階への条件にしましょう。

子音処理:破裂音と摩擦音を速度に負けさせない

日本語歌唱において「か行・た行・ぱ行」などの破裂音は、速いテンポでは「はじく力」が弱くなりがちです。これを防ぐには「オーバーアーティキュレーション(誇張した発音)」の練習が有効です。ゆっくりなBPMで意図的にオーバーに子音を出し、テンポを上げるにつれて自然な量に落とす、というアプローチを取ると、原曲速度でも子音の明瞭さが残ります。

ミックスボイスへの移行:換声点を目立たせないための練習

YOASOBIの楽曲で音域が高くなると、多くの方が「声が割れる」「突然裏声になる」という換声点の問題に直面します。ikuraさんの歌声が滑らかに聴こえる大きな理由のひとつが、換声点(一般的に女声でE4〜G4、男声でD4〜F4付近)をほとんど感じさせないミックスボイスの使い方にあります。

換声点を滑らかにするためのリップロール練習

リップロール(唇をプルプルと振動させながら発声する練習)は、喉の余分な力を抜きながらチェストボイスとヘッドボイスの「橋渡し」をするのに非常に有効です。

  • スケール(ド〜ソ〜ド)をリップロールで歌い、胸から頭へ移行するときに「引っかかり」がなくなるまで繰り返す
  • 音域をC4〜C5(中央ド〜1オクターブ上)でまずカバーし、慣れたらC4〜E5まで広げる
  • 1回の練習セッションで5〜10分程度を目安に行う(過剰にやると喉疲労の原因になります)

奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:

換声点の練習は、私がレッスンで最も時間をかける部分のひとつです。「裏声と地声の間に段差がある」という感覚を持っている方がとても多くて、最初はリップロールで段差が消える瞬間を体験してもらいます。コツは「胸声を上まで引き上げようとしない」こと。E4〜G4あたりで自然にヘッド寄りにシフトしていく感覚を受け入れると、だんだんつながりが出てきます。無理に力でつなごうとする方ほど、かえって段差が目立ってしまう印象があります。

男性がYOASOBIを歌う場合の注意点

男声でikuraさんのメロディを歌う場合、原曲キーのままでは多くの音がG4〜C5付近に集中するため、ファルセット(裏声)が主体になります。原曲から5〜7半音下げる(例:原曲キーCならF〜G♭に移調)と、チェストとミックスで歌いやすい音域に収まります。カラオケのキー調整機能や、DTMソフト(Logic Pro、GarageBandなど)のピッチシフト機能を活用しましょう。DTMに興味がある方はDTM・作曲講座のページもあわせてご覧ください。

自宅練習環境の整え方:録音・モニタリングのすすめ

声の上達において「録音して聴く」習慣は、週1回のレッスンより効果が大きいこともあります。自分の声を客観的に聴くことで、「思っていた音程と実際の音程のギャップ」に気づけるからです。以下は自宅練習で揃えておくと役立つ機材の目安です。

自宅ボーカル練習の機材リスト(コスパ重視)

機材 用途 目安価格 おすすめ例
コンデンサーマイク 録音精度を上げる 5,000〜15,000円 Audio-Technica AT2020
オーディオインターフェース PCへの入力安定化 7,000〜20,000円 Focusrite Scarlett Solo
モニターヘッドフォン 音程の正確な確認 5,000〜15,000円 Sony MDR-7506
ピッチ計測アプリ リアルタイム音程確認 無料〜1,200円/月 Vocal Pitch Monitor(無料)
DAWソフト 録音・波形確認 無料〜 GarageBand(Mac/iPhone無料)、Audacity(無料)

必ずしも全部揃える必要はありません。まず「スマートフォン+無料アプリ」で録音と視覚的ピッチ確認を始め、上達の意欲が高まったタイミングでコンデンサーマイクとオーディオインターフェースを追加するのが現実的なステップです。

練習スケジュールの目安

毎日長時間練習すれば早く上達するわけではありません。声帯(声帯筋および粘膜)は筋肉であり、過負荷をかけると炎症が起きて逆効果になります。

  • 初心者〜中級者:ウォームアップ10分+集中練習20〜30分+クールダウン5分、週5日程度
  • 中級者〜上級者:ウォームアップ15分+課題曲練習40〜50分、週5〜6日
  • 声が枯れたとき:即座に練習を中断し、声を休める(最低1〜2日)

YOASOBIを通じてボーカルの幅を広げるために

YOASOBIの楽曲をきっかけに歌の練習を始める方は年々増えていますが、「好きな曲を歌いたい」というモチベーションは、ボーカルの上達において非常に強力なエンジンになります。一方で、独学だけでは「なぜ音程が外れるのか」の原因分析が難しく、誤った練習を繰り返すリスクもあります。

声の仕組みを正しく理解したうえで、自分に合ったアプローチを選ぶことが最短ルートです。ボーカル講座の詳細はこちらでご確認いただけます。独学の行き詰まりを感じたとき、または「最初から正しく身につけたい」と思ったときに、ぜひ活用してください。

独学と講師指導の比較

項目 独学 講師指導(マンツーマン)
原因分析の精度 自己判断のため誤診リスクあり リアルタイムで正確に把握可能
上達速度 個人差が大きい 課題が明確なため効率が高い
費用 アプリ・機材費のみ(月2,000〜5,000円程度) 月8,000〜20,000円程度(教室により異なる)
モチベーション維持 孤独になりやすい フィードバックがあるため継続しやすい
悪いクセの修正 気づきにくい 早期発見・修正が可能

「アイドル」の高速フレーズを正確に歌えるようになりたい、「夜に駆ける」のロングトーンで音程を外さないようにしたいという目標がある方は、ぜひ一度プロの耳で聴いてもらうことをおすすめします。音程のズレや換声点の問題は、第三者の耳があると発見がずっと早くなります。

コアミュージックスクールのトップページでは、ボーカル以外にもピアノ・サックス・フルート・DTMなど全9コースの情報をご覧いただけます。

まとめ:ikura流の歌い方を習得するための3ステップ

  1. 呼吸の「保ち方」を固める:S音フォニクス・ロウソク練習でダイアフラムサポートを身につける(目安:2週間)
  2. 耳と声のピッチ精度を上げる:インターバルトレーニング+録音比較で音程の誤差を数値で把握する(目安:継続的に)
  3. 高速フレーズをスピードビルドで攻略する:BPM80から原曲BPMまで段階的に速度を上げ、各段階で完璧に歌えることを録音で確認する(目安:曲ごとに1〜4週間)

この3ステップは順番通りに進めることが重要です。呼吸の安定がなければ音程も安定しませんし、音程精度がなければ高速フレーズを速くしても粗くなるだけです。焦らず積み上げることが、結果的に最も早いルートです。


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