声変わり期の歌の練習|中高生男子のボイトレで大切なこと

ボーカル

「練習しているのに声が出なくなった」「歌うと途中でひっくり返ってしまう」——中学生・高校生の男子から、こういった相談をよく受けます。声変わりの時期は、昨日まで出ていた音域が突然出なくなったり、声がかすれたりと、歌に対して自信を失いやすい時期です。しかしこの時期にどう向き合い、どんな練習をするかによって、その後の声の発達に大きな差が生まれます。

結論からお伝えすると、声変わり期に無理に高音を出そうとする練習は逆効果です。この時期は「声を育てる準備期間」と捉え、喉への負担を最小限にしながら発声の土台を作ることが最優先になります。この記事では、声変わりのメカニズムから、中高生男子が安全に続けられる練習方法まで、現場のレッスンで見えてきた知見をもとに具体的に解説します。

声変わりとは何か?喉の中で起きていること

声変わり(変声期)は、男性ホルモン(テストステロン)の急増によって引き起こされる喉頭(こうとう)の急成長です。喉頭内にある声帯は、変声前の子どもの状態では平均約12〜15mmほどの長さですが、変声を経て成人男性では約17〜25mmにまで伸長します。この変化は主に12〜16歳の間に集中して起こり、わずか1〜2年で声の基本周波数(ピッチ)が平均で約1オクターブ(約2倍)も低下します。

子どもの話し声の基本周波数はおよそ250〜300Hz程度ですが、成人男性では100〜150Hz前後まで下がります。この急激な変化の最中、声帯は「新しいサイズ」にまだ慣れておらず、コントロールがうまくいかない状態が続きます。これが「声がひっくり返る(チェストボイスとファルセットの間で声が裏返る)」現象の正体です。

変声期の3つのフェーズ

  • フェーズ1(初期):声が突然かすれる、疲れやすくなる。高音域が出にくくなり始める。
  • フェーズ2(中期):声のひっくり返りが最も頻発する。地声と裏声の境界が不安定になる。この時期が最長で、数ヶ月〜1年以上続くこともある。
  • フェーズ3(後期):新しい低音域が安定してくる。裏声(ファルセット)との行き来が少しずつコントロールできるようになる。

どのフェーズにいるかを自己診断するには、「話し声のキー」を目安にするのが簡単です。話し声が以前より明らかに低くなってきたと感じる時期がフェーズ2の真っ只中であることが多いです。

変声期にやってはいけない練習・やっていい練習

変声期の喉は、骨格が急成長している状態です。過度な負荷をかけると、声帯結節(声帯にできるタコのようなもの)や声帯炎のリスクが高まります。特に部活動でのカラオケ大会や文化祭の発表などで「無理に合わせようとした」結果、声を痛めてしまう中学生は少なくありません。

避けるべき練習

  • 変声前と同じキーで無理に歌い続ける
  • 喉が疲れているのに連続して1時間以上歌う
  • がなり声(シャウト)や怒鳴るような発声を多用する
  • 声がかすれている状態で練習を強行する
  • 水分補給なしに乾いた環境で長時間歌う

変声期でも安全にできる練習

  • 腹式呼吸のトレーニング:声帯に頼らず、呼吸のコントロール能力を高める
  • 低〜中音域のハミング:喉への負担が少なく、共鳴感覚を養える
  • リップロール:唇を振動させながら音程を動かす練習。声帯への直接負荷が少ない
  • リズム・耳のトレーニング:音程を聴き取る力、リズムに合わせる力は声変わりと無関係に鍛えられる
  • 新しい音域の探索:今の自分が無理なく出せる音域を把握し、その範囲内で歌う曲を探す

奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:

私が実際にレッスンで中学生男子を担当していて気づくのは、「声が出なくなった=練習が足りない」と思い込んで、逆に声を痛めてしまうケースがとても多いということです。変声期は喉が急成長している真っ最中なので、無理に高い音を出そうと力めば力むほど声帯に負担がかかります。まずはリップロールやハミングで「今の声でできること」を積み上げていくと、生徒さんも焦りが薄れて練習が続くようになります。

変声期の男子におすすめの練習曲の選び方

変声期に歌う曲を選ぶ際の最重要ポイントは「キーの低さ」ではなく、「自分の今出せる音域に収まっているか」です。変声後の男性の音域は一般的にF2(約87Hz)〜C5(約523Hz)程度が標準ですが、変声の途中段階ではさらに不安定で個人差も大きいため、一律に「この曲なら大丈夫」とは言いにくいのが実情です。

曲選びの4つの基準

  1. 最高音がA3(ラ)以下に収まる曲:A3はおよそ220Hzで、変声中でも地声で出しやすいラインです。
  2. テンポがゆっくり目(BPM 60〜90程度)の曲:速い曲は呼吸の管理が難しく、喉を締めやすくなります。
  3. ロングトーンが少ない曲:変声中は一定の音を長く伸ばすのが難しいため、音符が細かく動く曲の方が無理しにくいことも。
  4. 自分が好きで聴き込んでいる曲:音程の記憶が正確で、ピッチのズレに気づきやすくなります。

変声期でも挑戦しやすい曲の例

曲名 アーティスト 最高音の目安 BPM目安
ドライフラワー 優里 G3〜A3(原曲キー) 約72
香水 瑛人 F3〜G3(原曲キー) 約78
366日 HY 低め設定のキーで練習可 約65
夜に駆ける YOASOBI キーを下げて練習向き 約130(ゆっくりから)

上記はあくまで参考例です。カラオケやDAWソフト(GarageBandなど)でキーを−3〜−5程度下げて歌ってみて、喉に力が入らず自然に声が出るキーを探すことが大切です。

変声期に伸ばせる!声以外の音楽スキル

声変わりの時期は「歌えない期間」ではありません。むしろ、声に頼らずに鍛えられるスキルに集中することで、変声後に一気に成長できる土台が作れます。プロのボーカリストの多くも、声が安定しない時期に音楽理論やリズム感を徹底的に磨いたと語っています。

① 音程・音感のトレーニング

音程を正確に取る「相対音感」は、歌を歌わなくても鍛えられます。ピアノやギターの音を聴いて音名を当てる練習、メロディーを楽譜なしで聴いて再現する練習などが効果的です。1日15〜20分、2〜3ヶ月継続すると音程感覚に明らかな変化が出ます。

② リズムトレーニング

メトロノームを使ったリズム練習は、変声期に最も取り組みやすいトレーニングのひとつです。BPM 60から始めて手拍子や足踏みでビートを刻む練習、裏拍(オフビート)を意識する練習など、声を使わずにリズム感を磨けます。リズム感はボーカルだけでなく、将来DTMや楽器演奏を始めたときにも直結する能力です。

③ 曲の構造・音楽理論を学ぶ

好きな曲のコード進行を調べたり、AメロBメロサビの構成を分析したりする習慣をつけておくと、歌う際の表現力に大きく影響します。DTM・作曲講座では、こうした音楽理論の基礎もカバーしているため、変声期の中高生が「歌以外にも音楽を広げたい」と感じたタイミングで始めやすい内容になっています。

④ 腹式呼吸・姿勢の改善

正しい腹式呼吸と姿勢の習慣化は、声変わりが落ち着いた後の発声に直接効いてきます。横隔膜(おうかくまく)を意識的に使うブレスコントロールは、1日5〜10分の練習でも数週間で変化を感じられます。特にスマートフォンを見る時間が長い中高生は、胸式呼吸と猫背のセットになりやすいため、意識的に取り組む価値があります。

変声後のボイトレ|低音の声を活かした歌い方

変声期が落ち着いてきたフェーズ3以降は、大人の男性ボイスが安定し始めます。この時期から本格的なボイトレを始めると、土台のある声の作り方が身につきやすくなります。

チェストボイスとミックスボイスの開発

変声後の男性声は「チェストボイス(胸声)」が中心になります。低音域での豊かな響きはチェストボイスの強みですが、中〜高音域ではファルセット(裏声)との間にある「ミックスボイス」をどう育てるかが課題になります。ミックスボイスの習得には個人差がありますが、一般的にコンスタントに練習を続けた場合、3〜6ヶ月で変化を感じる方が多いとされています。

変声後のキー設定の目安

声域の種類 一般的な音域 代表的な音域の例
バリトン(最も多い) G2〜G4 話し声が中低音域に多い
テノール C3〜C5 高音域が出やすいタイプ
バス E2〜E4 非常に低い声が出るタイプ

多くの日本人男性はバリトンに近い音域を持ちます。自分の声域を正確に把握するには、ピアノやアプリで半音ずつ下から上へ音を当てていき、無理なく出せる最低音・最高音を確認するのが手軽な方法です。

奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:

私が現場で見ていて感じるのは、変声後に「自分の低い声が嫌だ」と感じる男の子がとても多いということです。でも実際にレッスンで低音の響きを活かした発声を練習していくと、「こんな声が出るんだ」と驚いてくれる場面が何度もありました。変声後の声は”失った高音”ではなく、”これから育てる新しい楽器”です。その視点が切り替わると、練習への向き合い方が前向きになります。

中高生男子がボイトレを始める前に知っておきたいこと

ボイトレを始めるタイミングはいつがいい?

「声変わりが終わってから始めるべき?」という質問はよく受けます。答えとしては、変声の途中でも始められます。ただし、レッスン内容は変声フェーズに合わせて調整する必要があります。

  • フェーズ1〜2(変声中):呼吸法、リズム感、耳のトレーニングを中心に。無理な発声練習は行わない。
  • フェーズ3以降(安定期):本格的な発声練習、音域拡張、表現技術のレッスンが可能。

独学とスクールの違い

項目 独学 スクール(マンツーマン)
声への負担チェック 自己判断のみ 講師がリアルタイムで確認
変声期の進捗管理 難しい フェーズに応じて調整可能
費用 教材費のみ(数百〜数千円) 月1万〜3万円程度(頻度・コースによる)
誤った癖がつくリスク 高い 低い(都度フィードバックあり)
モチベーション維持 自己管理が必要 定期的な目標設定でサポート

特に変声期は、声帯への誤った負荷のかけ方を自分で気づくのが難しい時期です。YouTube動画などで独学する場合も、「声が痛い・かすれる・疲れやすい」と感じたら無理をやめることがまず大切です。

家での練習環境の作り方

毎日の自主練習には、スマートフォンとイヤホンがあれば十分です。録音して自分の声を客観的に聴き直す習慣をつけると、音程のズレや声の変化に気づきやすくなります。iPhoneの標準アプリ「ボイスメモ」でも十分な品質で録れます。より精度を上げたいなら、コンデンサーマイク(Audio-TechnicaのAT2020など、実売価格1万円前後)とオーディオインターフェイス(YAMAHAのAG03などで2〜3万円台)があると、発声の細かなニュアンスまで確認できます。

また、ボーカル講座では家での練習内容についてもレッスン内でアドバイスを受けられるため、「何を練習すればいいかわからない」という悩みも解消しやすくなります。

まとめ:声変わり期は「焦らず・丁寧に・継続」が最善

声変わりの時期は、どんなに練習を積んでいた人でも一時的に「思い通りに歌えない」と感じる期間です。しかしこの時期を焦らず丁寧に過ごし、呼吸・リズム・耳といった声以外のスキルを育てておくことで、変声後に一気に飛躍できる準備が整います。

大切なポイントを改めて整理すると:

  • 無理な高音練習は声帯を傷める原因になる
  • リップロール・ハミング・腹式呼吸は変声中でも安全にできる
  • 今の自分の音域に合ったキーで曲を選ぶことが最重要
  • 変声後は新しい低音域を活かした発声を丁寧に育てる
  • 変声中でもボイトレは始められる。ただし内容はフェーズに合わせる必要がある

声変わりに悩む中高生男子の方、またそのご家族の方は、ぜひ一度プロ講師に現状を見てもらうことをおすすめします。

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