SLSメソッドとは?セス・リッグスが体系化したボイトレ理論をわかりやすく解説

ボーカル

「SLSって聞いたことはあるけど、普通のボイトレと何が違うの?」「セス・リッグスという名前は知っているけど、具体的にどんな理論なのかよくわからない」——そんな疑問を持つ方は少なくありません。SLS(Speech Level Singing)は、ポップスやR&B、ミュージカルなど多ジャンルのプロ歌手が採用してきたボイストレーニングの手法です。この記事では、SLSメソッドの概要・理論的な背景・具体的なトレーニング内容・他のボイトレ手法との違いまでを、現場指導の視点を交えながら解説します。

まず結論からお伝えすると、SLSメソッドの核心は「話し声の自然な状態を保ったまま、音域全体にわたって安定した発声を実現する」ことにあります。喉を締めず、過度に力まず、低音域から高音域まで同じ喉の状態でつなげることを目指すメソッドです。これを実現するために、声帯の動き・共鳴腔の使い方・ブレスコントロールを科学的に整理したのがセス・リッグスとその後継者たちです。

SLSメソッドとは何か:基本概念と誕生の背景

SLSとは「Speech Level Singing(スピーチ・レベル・シンギング)」の略称です。アメリカのボイスティーチャーであるセス・リッグス(Seth Riggs)が1980年代から体系化したボーカルトレーニング手法で、その名のとおり「話す(スピーチ)レベルの自然な喉の状態で歌う(シンギング)」という考え方を根幹に置いています。

従来のクラシック声楽では、高音域に移行するにつれて喉頭(こうとう)の位置を積極的に上下させたり、特定のフォルマント(共鳴ピーク周波数)を意図的に形成したりする訓練が重視されてきました。一方、SLSは喉頭を安定させた状態(いわゆる「ニュートラルポジション」)をキープすることで、チェストボイス(胸声)からヘッドボイス(頭声)へのパッサージョ(換声点)を滑らかに越えることを目指します。

セス・リッグスとその弟子たち

セス・リッグスはマイケル・ジャクソン、マドンナ、スティーヴィー・ワンダー、アラニス・モリセットなど多数のトップアーティストを指導したことで知られています。その後、弟子にあたるデイヴ・ニルソン(Dave Nilson)やSLS認定インストラクターたちが世界各国に手法を広め、日本でも2000年代以降にSLS認定講師が活動するようになりました。

現在はSLSと同じ思想を引き継いだ「IVA(Institute for Vocal Advancement)」が国際的な師範資格を発行しており、SLSとIVAはほぼ同一の理念を持つ手法として認識されています。

SLSの中核理論:声区融合と喉頭の安定

SLSメソッドを理解するうえで欠かせないのが「声区(ボイスレジスター)」の概念です。人間の声は大きく分けてチェストボイス・ミックスボイス・ヘッドボイスの3つの声区に分類されます。それぞれを筋肉・声帯の状態から説明すると以下のようになります。

声区 声帯の状態 主な音域の目安(男性) 主な音域の目安(女性)
チェストボイス 声帯が厚く閉鎖、輪状甲状筋と甲状披裂筋が協調 C2〜E4付近 C3〜F4付近
ミックスボイス 声帯が薄く伸展しながら部分閉鎖 F4〜B4付近 G4〜C5付近
ヘッドボイス 輪状甲状筋が優位、声帯が細く薄く伸展 C5以上 D5以上

SLSが最も重視するのは、この3つの声区が途切れず「融合(ブレンド)」するようにトレーニングすることです。特にパッサージョ付近(男性の場合はおよそE4〜G4、女性はA4〜C5)での声のひっくり返りや裏声への急な移行を防ぐことに多くのエクササイズが費やされます。

喉頭ニュートラルポジションとは

SLSでは喉頭が高すぎず低すぎない「ニュートラルポジション」に保つことを基本とします。喉頭が高く上がると声帯周辺の筋肉が緊張し、音程が不安定になったり音色が詰まったりします。逆に喉頭を過度に下げるといわゆる「ダークサウンド」になり、スポーツ声楽的な音色になってしまいます。話しているときの喉頭の高さが、歌うときの理想的な基準位置として用いられます。

SLSで使われる主要エクササイズ

SLSレッスンでは以下のような発声エクササイズが繰り返し使われます。いずれも喉への負担を最小化しつつ、声区融合を促す目的で設計されています。

  • 「ナー(nay)」スケール:鼻音成分を含む「ナー」の母音でスケールを歌い、喉頭が上がりにくい状態を維持する練習
  • 「ングー(ng)」リップトリル:鼻腔共鳴と声帯のテンションを最小化し、チェストとヘッドをつなぐ橋渡し的エクササイズ
  • 「ウ(oo)」スケール:唇を丸め口腔を狭めることで喉頭の上昇を抑えながら高音域に移行する練習
  • 「マム(mum)」スライド:グライドスケール(ポルタメント)で声区の切れ目を探しながらブリッジを乗り越える練習

奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:

私が実際にレッスンで繰り返し見てきたのは、「ナー」や「ング」のエクササイズを始めて数回やっただけで「なんか声が楽になった気がする」と感じる生徒さんが多いことです。それまで力で高音を押し上げようとしていた方ほど変化が早い印象があります。ただ、喉頭の位置感覚はすぐに元に戻りやすいので、短時間でも毎日継続することが定着への近道だとお伝えしています。

SLSメソッドと他のボイトレ手法との違い

ボイストレーニングの手法はSLS以外にも多数存在します。主要なものと比較することで、SLSの特徴がより明確になります。

手法 基本思想 主な対象ジャンル 喉頭への介入
SLS / IVA 話し声レベルで喉を安定させ声区融合を目指す ポップス・R&B・ミュージカル・ロック ニュートラルポジションを維持
ベルカント(クラシック声楽) フォルマントシフトと共鳴を重視した美声形成 オペラ・クラシック 喉頭を積極的に下げる場合あり
BAST(ブレス・アンド・シンギング・テクニック) 呼吸圧のコントロールを中心に据えた発声 ポップス全般 呼吸圧で喉を間接的にコントロール
ENTMT(エストル法) 音楽療法から派生した声帯機能改善 リハビリ・一般向け 声帯閉鎖機能の回復に特化
ナチュラルボイス 身体の脱力を軸に自然な声を引き出す 民謡・フォーク・演劇 あえて介入しない

SLSの最大の特徴は「ジャンルを問わず応用できる汎用性の高さ」にあります。クラシックのような特定の音色を目指すのではなく、生徒が目指すスタイル(R&B、ロック、ポップスなど)に合わせて声区融合のスキルを活かせる点が、多くのポピュラー歌手に支持されてきた理由のひとつです。

SLSはミックスボイス習得に向いているのか

「ミックスボイスを身につけたい」という目標を持つ方に、SLSは特に相性のよい手法といえます。SLSのエクササイズはまさに声区のブレンドを実現するために設計されており、チェストボイスとヘッドボイスが自然につながる感覚を体験的に習得できます。ただし、習得にはある程度の時間がかかります。週1回のレッスン+毎日15〜20分の自主練習を3〜6か月継続することで、多くの場合パッサージョの通過感が変化し始めます。

SLSレッスンの流れと実際のトレーニング時間

SLS対応のボイストレーニングレッスンでは、一般的に以下のような流れで指導が行われます。コアミュージックスクールのボーカル講座でも、生徒の目標や声の状態に合わせてSLSの理論をベースにしたアプローチを取り入れることがあります。

典型的なレッスン構成(60分の場合)

  • 0〜10分:声の状態の確認・ヒアリング(前回の練習の振り返り)
  • 10〜25分:ウォームアップ(リップトリル・ハミング・低音域から始まるスケール練習)
  • 25〜45分:声区融合エクササイズ(ナー・ングー・ウーなどを使ったスケール、パッサージョ越えの集中トレーニング)
  • 45〜60分:曲への応用(課題曲のうち高音フレーズやブリッジ箇所を中心に練習)

自主練習で意識すること

SLSの効果を高めるためには、レッスン外での自主練習が不可欠です。以下のポイントを意識して取り組むと効果的です。

  • 練習は1回15〜20分程度にとどめ、喉疲労を避ける(声帯は筋肉なので過負荷は逆効果)
  • 練習前は水分補給を行い、声帯粘膜の乾燥を防ぐ(常温の水が推奨)
  • 録音して自分の声をモニタリングする習慣をつける(スマートフォンアプリで十分)
  • 高音域を無理に押すのではなく、エクササイズで「通り道」を探す感覚を優先する
  • ピアノアプリやチューナーアプリを使い、音程とピッチを客観的に確認する

奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:

私が現場で特によく見かけるのは、自主練習で「とにかく高い音を出そうとして喉を締めてしまう」パターンです。SLSのエクササイズは出力の大きさより「喉の状態を崩さないまま音域を広げる」ことが目的なので、最初はか細くても楽に出る声を優先してほしいとお伝えしています。実際にLogicでレコーディングした音源を聴き比べると、力んでいるときよりリラックスしているときの方が音量・音色ともに豊かなことが多く、それを体験すると生徒さんの意識がガラッと変わります。

SLSメソッドで解決できる発声の悩みと限界

SLSは多くの発声の問題にアプローチできる一方で、すべての悩みに対応できるわけではありません。何が得意で、何を補完的に学ぶ必要があるかを理解しておくと、学習計画を立てやすくなります。

SLSが得意とする課題

  • 高音になると声が詰まる・ひっくり返る(声区転換の不安定さ)
  • チェストボイスとヘッドボイスの間に「穴」がある(特定音域だけ声が出にくい)
  • 歌うと喉が痛くなりやすい(余分な力みによる喉への過負荷)
  • 地声っぽい高音(いわゆるミックスボイス)を出せるようになりたい
  • 音程が不安定で歌の上部音域がフラットになりがち

SLS単体では補いにくい課題

  • リズム・グルーヴ感:声区融合の習得はできても、8分音符や16分音符のリズム精度はリズムトレーニングが別途必要
  • 音楽理論・作曲:コード理論やメロディ作りを学びたい場合はDTM・作曲講座との併用が効果的
  • マイクワーク・音響処理:レコーディングやライブでの音量バランス(dBFS管理など)はPA・DTMの知識が別途必要
  • 感情表現・リリックの解釈:発声技術とは別に、楽曲解釈や表現力を磨くアプローチが求められる

SLSメソッドを学ぶ前に知っておきたいこと

向いている人・向いていない人

SLSは以下のような方に特に向いていると考えられます。

  • ポップス・R&B・ロック・ミュージカルなどのジャンルで歌いたい方
  • ミックスボイスや高音域の安定を課題としている方
  • 喉への負担を減らした安全な発声法を身につけたい方
  • アーティスト活動をしており、長期間にわたって声を使い続けたい方

一方で、純粋なクラシック声楽の表現(ベルカント唱法の音色や共鳴感)を目指している場合は、SLSよりもクラシック声楽の専門的な師事の方が適している場合があります。

SLSレッスンを探す際の注意点

日本国内でも「SLS対応」「IVA認定」を掲げる講師が増えていますが、認定資格を持たない講師がSLSを標榜しているケースもゼロではありません。レッスンを検討する際は、講師がSLS認定(または現IVAの認定資格)を保有しているか、あるいはSLSの理論を正しく理解したうえで独自に応用しているかを確認することが大切です。コアミュージックスクールでは、講師が培ってきた発声指導の知見をもとにボーカルレッスンを提供しています。詳細はボーカル講座ページをご確認ください。

費用の目安

SLS対応のボイストレーニングレッスンの相場は、個人経営の教室で月2〜4回のプライベートレッスン(1回60分)として月額10,000〜30,000円程度が一般的です。大手音楽スクールではさらに高額になるケースもあります。無料体験レッスンを設けている教室を活用して、まず相性を確かめてみることをおすすめします。コアミュージックスクールでも無料体験レッスンを随時受け付けています。

コアミュージックスクールでSLS的アプローチを体験する

SLSメソッドはあくまでも「ツール」であり、それを実際に声に活かせるかどうかは、自分の声に合ったペースで繰り返し訓練することにかかっています。教科書を読むだけでは声は変わりません。実際に声を出して、フィードバックを得て、修正して——その繰り返しがあってはじめて身体に定着します。

コアミュージックスクールは川口駅から徒歩2分という通いやすい立地にある音楽教室です(スクール公式サイトはこちら)。ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTMなど全9コースを開講しており、現役プロ講師によるマンツーマン指導が特徴です。

ボイトレに初めて取り組む方も、一度挫折した経験のある方も、まずは無料体験レッスンで自分の声の現状を講師に見てもらうことから始めてみてください。SLSの考え方に基づいた丁寧なフィードバックを体験することが、自分の声と向き合う第一歩になるはずです。

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