「フューチャーベースを作りたいけど、どこから手をつければいいかわからない」「サイドチェインやボーカルチョップって聞くけど、具体的にどう設定するの?」——DTMを始めたばかりの方から、ある程度経験のある方まで、フューチャーベースの制作には独特の壁があります。フューチャーベース制作の核となるサイドチェインとボーカルチョップの実践的な設定方法を、DAW操作の現場目線で丁寧に解説します。

フューチャーベースは、2010年代中頃にFlume・Marshmello・Haikusといったアーティストが牽引したジャンルで、シンセのウォブルサウンド、透明感のあるボーカルチョップ、そして強烈なサイドチェインによるポンピング感が特徴です。テンポは130〜160 BPM程度が主流で、半拍や1拍単位のリズムパターンが多用されます。まずはこの3つの要素を押さえることが、フューチャーベース制作の第一歩です。
フューチャーベースの基本構造を理解する
制作に入る前に、フューチャーベースがどんな音楽的要素で成り立っているかを整理しておきましょう。ジャンルの構造を知ることで、各テクニックの「目的」が明確になり、習得が格段に早くなります。
テンポとリズムの特徴
フューチャーベースのテンポは140〜150 BPMが最も一般的です。ハーフタイムのドラムパターン(スネアが3拍目に1発)と、16分音符を細かく刻むハイハットが組み合わさることで、浮遊感と疾走感を同時に生み出します。キックは強めに1拍目と3拍目に置き、ベースラインのポンピングはサイドチェインで演出します。
使われるコード進行とスケール
コード面では、明るく開放的な雰囲気を作るためにメジャーキーのダイアトニックコードが中心です。よく使われるのはI→V→VIm→IVのループ進行(例:Cメジャーキーで C→G→Am→F)で、シンプルながら感情的なウォブルシンセと合わせることで劇的なサウンドになります。また、スーパーソウ系(複数のオシレーターをデチューンした分厚いシンセ)が主役音色になることがほとんどです。
必要なDAWと主要プラグイン
| カテゴリ | 代表的なツール | 用途 |
|---|---|---|
| DAW | Cubase、Ableton Live、FL Studio | 全体制作・ミキシング |
| シンセ | Serum(Xfer Records)、Vital(無料) | ウォブル・スーパーソウ音色 |
| コンプレッサー | 付属コンプ、OTT(無料) | サイドチェイン・音圧管理 |
| リバーブ | Valhalla Room、付属リバーブ | 空間演出・ボーカル処理 |
| サンプラー | DAW付属サンプラー | ボーカルチョップ |
なお、コアミュージックスクールのDTMレッスンではCubaseを主軸に指導しています。Cubaseにはサイドチェイン機能が標準搭載されており、追加プラグインなしでも本格的なフューチャーベースサウンドを構築できます。
サイドチェインの仕組みと設定方法
フューチャーベース最大の特徴ともいえるのが、サイドチェインによるポンピング感(ダッキング効果)です。キックが鳴るたびに他のトラックの音量が一瞬下がり、リズムにグルーヴと立体感が生まれます。
サイドチェインの基本原理
サイドチェインとは、コンプレッサーの「検出信号源」を別トラックから受け取る仕組みです。通常、コンプレッサーは自分自身の信号が大きくなったときに音量を下げますが、サイドチェインを使うと「キック(外部信号)が鳴ったときにシンセの音量を下げる」という制御が可能になります。これにより、キックとシンセが同時に鳴るたびにシンセがスッと引き、キックが前に出るような抜け感が生まれます。
Cubaseでのサイドチェイン設定手順
- キックのチャンネルを用意し、「FX チャンネル」または「Sends」でサイドチェイン用のルーティングを設定する
- サイドチェインをかけたいシンセやベーストラックにコンプレッサー(Cubase付属の「Compressor」)をインサートする
- コンプレッサーの「Activate Side-Chain(サイドチェインをアクティブ化)」ボタン(黄色のSCボタン)をオンにする
- キックトラックの「Sends(センド)」からコンプレッサーのサイドチェイン入力に信号を送る
- コンプレッサーのパラメーターを調整:Ratio 4:1〜8:1、Attack 5〜20 ms、Release 80〜200 msを目安に
パラメーターの細かい調整ポイント
Threshold(スレッショルド)は、サイドチェイン信号がどのレベルを超えたときにコンプレッションを開始するかを決める値です。キックの音量に合わせて −20〜−30 dB 程度に設定すると、キックのたびにしっかりダッキングがかかります。
Release(リリース)は特に重要で、短すぎると不自然なポンピング、長すぎるとキックのたびに音が消えてしまいます。テンポ140 BPMであれば1拍=約428 msなので、リリースを100〜150 ms前後に設定すると次のキックまでに音量が戻り、自然なグルーヴになります。
また、Ableton Liveではデフォルトの「Auto Filter」や「Compressor」プラグインでも同様に設定でき、FL StudioではFruity Peak Controllerという専用LFOツールを使う方法も定番です。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が実際にレッスンでサイドチェインを教えるとき、まず「聴いてわかるかどうか」を最優先にしています。数値の正解より、自分の耳でポンピングが聴こえるかどうかが大事です。Cubaseのコンプレッサーで設定したら、必ずキックとシンセを同時に再生してReleaseを耳で調整してみてください。「ちょうどいい」と感じる場所が、そのテンポでのベストな値になることがほとんどです。数値はあくまで出発点として使いましょう。
ボーカルチョップの作り方とエフェクト処理
フューチャーベースのもう一つの顔が、ボーカルチョップです。歌声を細かく切り刻んでサンプラーに並べ、ピアノのように音程を変えながら演奏する手法で、透明感と情感を一度に演出できます。
ボーカル素材の選び方と準備
ボーカルチョップには、まず使えるボーカル素材が必要です。選択肢は大きく3つあります。
- 自分で録音したボーカル:著作権の問題がなく、最も自由度が高い。コンデンサーマイクがあれば自宅でも録音可能
- ロイヤリティフリーのサンプルパック:Splice(月額約1,200〜2,500円)やLooperman(無料)などで入手可能
- DAW付属のボーカルサンプル:Cubaseのループブラウザにも声系サンプルが収録されている
素材が決まったら、まずノーマライズ(音量を最大まで上げる処理)をかけてから作業に入るのが定石です。音量がバラバラだと、サンプラーで並べたときにダイナミクスの管理が難しくなります。
DAWサンプラーでのチョップ作成手順
- ボーカル素材をDAWのサンプラートラックにドラッグ&ドロップする
- サンプラー上で素材を16分音符または8分音符単位で細かくスライスする(Cubaseの「ヒットポイント」機能が便利)
- 各スライスを音程の異なるMIDIノートにマッピングする(C3〜B4の2オクターブ分が一般的)
- MIDIピアノロールでメロディを打ち込む。フューチャーベースでは16分音符のシャッフル系リズムで並べるのが定番
- エフェクトを加える(後述)
ボーカルチョップに欠かせないエフェクト処理
チョップ後のボーカルに質感を加えるエフェクトチェーンは以下の通りです。
| エフェクト | 設定目安 | 効果 |
|---|---|---|
| ピッチシフター | ±0〜5 semitone | 音程の微調整・ハーモニー生成 |
| リバーブ | Decay 1.5〜3秒、Wet 30〜50% | 空間・浮遊感の演出 |
| ディレイ | 1/8または1/16音符シンク、Feedback 20〜40% | 揺らぎとエコー感 |
| EQ | 200Hz以下をカット、8〜12kHzを軽くブースト | 抜け感・篭り感の解消 |
| OTT(マルチバンドコンプ) | Depth 30〜60% | キャラクターの強調・音圧感 |
特にOTT(Over The Top)はフューチャーベースの定番エフェクトで、Xfer RecordsがAbleton向けに無料配布しているマルチバンドコンプレッサーです(現在はVST版も流通)。ボーカルチョップのみならず、シンセやベースにもかけることで、ジャンル特有の「パリッとした」音色になります。
ウォブルシンセの作り方:Serumを使った実践
フューチャーベースのシグネチャーサウンドといえば、スーパーソウ+LFOによるウォブルシンセです。Serum(Xfer Records、定価約2万円前後)やVital(無料)があれば、以下の手順で再現できます。
スーパーソウ音色の作り方
- オシレーターAに「Saw(のこぎり波)」を選択する
- 「Unison(ユニゾン)」を7〜8ボイスに設定し、Detune(デチューン)を0.2〜0.5 semitone程度かける
- フィルターにローパスフィルター(LPF)を適用し、カットオフを2〜4 kHz 付近にセット
- LFOをフィルターのカットオフにアサインし、LFOレートを1/4〜1/2音符シンクに設定すると、曲のテンポに合ったウォブルになる
- エンベロープのAttackを5〜10 ms、Releaseを300〜500 ms に設定してパッド系の滑らかな立ち上がりを作る
音作りのよくある失敗と対処法
- 音がモコモコする→ EQで200 Hz以下をハイパスカット(12〜24 dB/oct)
- 音が薄く感じる→ Serumのサブオシレーターにサイン波を追加して低音を補強
- ウォブルがテンポにハマらない→ LFOを「テンポシンク」モードにしてDAWのBPMに追従させる
- ステレオ感が出ない→ Unison Spreadを上げ、左右に音を広げる
DTMでの音作りは「なぜその音になるのか」を理解することが上達の近道です。コアミュージックスクールのDTM・作曲講座では、Cubaseを使ったシンセ音色作りから楽曲制作の全体フローまで、マンツーマンで体系的に学べます。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が現場でウォブルシンセを作るとき、LFOのレートは「なんとなく聴こえる速さ」ではなく、必ずテンポシンクを使って1/4や1/2などの音符単位で設定しています。なぜなら、フリーランのLFOだとBPMが変わったときにウォブルがずれてしまい、他のパートとのグルーヴが崩れるからです。レッスンでもこの「テンポシンク習慣」を最初に覚えてもらうと、後の編曲作業がとても楽になると実感しています。
ミックスとマスタリングの考え方
音作りが完成したら、次はミックスです。フューチャーベースのミックスは「広さ」と「抜け感」が鍵になります。
各トラックのパン・EQ配置の目安
| トラック | パン位置 | EQ処理のポイント |
|---|---|---|
| キック | センター | 60〜80 Hzをブースト、500 Hzをカット |
| スネア・クラップ | センター | 200 Hzカット、2〜5 kHzをブースト |
| ベース・シンセ(低域) | センター | モノラルで処理。200 Hz以下に集中 |
| ウォブルシンセ(主役) | わずかにL/R広げる | 300 Hz前後をカット、高域を伸ばす |
| ボーカルチョップ | センター〜広めのステレオ | 200 Hz以下はカット、7〜12 kHzをブースト |
| ハイハット・パーカッション | L/Rに振り分け | 5 kHz以下をハイパスカット |
マスタリングチェーンの基本
フューチャーベースのマスタリングでよく使われるチェーンは以下の通りです。
- EQ:100 Hz以下を軽くカット、10 kHz付近をわずかにブーストしてエアー感を出す
- マルチバンドコンプ(OTTまたは付属プラグイン):全体のバランスを整える
- リミッター:出力が −0.3〜−1.0 dBFS を超えないよう設定する
最終的なラウドネスの目安は、ストリーミング向けであれば−14 LUFS(Spotify基準)程度が標準的です。過度に音圧を上げすぎるとサイドチェインのポンピング感が損なわれるため、−10 LUFS 以上には上げないようにするとフューチャーベースらしいダイナミクスが保てます。
1曲仕上げるまでの制作フローと目安時間
実際にどのくらい時間がかかるのか、初心者の方が最も気になるポイントのひとつです。以下は経験者が1曲(3〜4分)を制作する場合の目安です。
| 工程 | 内容 | 目安時間 |
|---|---|---|
| コード・メロディ制作 | キーの決定、コード進行・メインメロ打ち込み | 1〜3時間 |
| ドラムプログラミング | キック・スネア・ハイハット配置 | 30分〜1時間 |
| シンセ音色制作 | ウォブルシンセ・スーパーソウ作成 | 1〜2時間 |
| サイドチェイン設定 | コンプルーティング・パラメーター調整 | 30分〜1時間 |
| ボーカルチョップ制作 | スライス・マッピング・エフェクト処理 | 1〜2時間 |
| アレンジ・構成 | イントロ・Aメロ・サビ・ブレイクダウン配置 | 1〜3時間 |
| ミックス・マスタリング | EQ・コンプ・リバーブ・リミッター調整 | 2〜4時間 |
| 合計 | 7〜16時間程度 |
初心者の方は各工程で迷う時間も含めると2〜3倍かかることもありますが、1曲ごとに作業速度は確実に上がっていきます。最初から完璧を目指すより、まず1曲完成させることを優先しましょう。
「何をどの順番で学べばいいかわからない」という方には、コアミュージックスクールのDTM・作曲講座で現役講師とマンツーマンで進めるのが最も効率的な方法のひとつです。自分の目標ジャンルに合わせたカリキュラムで学べます。
フューチャーベース制作でよくある質問
Q. 無料DAWでも作れますか?
はい、作れます。GarageBand(Mac無料)やCakewalk(Windows無料)でも基本的なサイドチェインやボーカルチョップは実現できます。ただし、Serum・OTTなどのサードパーティプラグインが使えるかどうかはDAWによって異なります。Vitalは無料かつVST/AU対応なので、まずこちらから試すのがおすすめです。
Q. ボーカルが録れない場合はどうすればいい?
Splicや Loopmasters などの有料サンプルサービスには、ロイヤリティフリーのボーカルフレーズが数万点以上収録されています。Spliceは月額約1,200円(100クレジット)から始められ、ダウンロードした素材は商用利用も可能です(利用規約の確認を推奨)。コアミュージックスクールのボーカル講座も活用すれば、自分の声を録音素材として活かす方法も学べます。
Q. フューチャーベースの学習におすすめのリファレンス曲は?
Flumeの「Never Be Like You」(2016年)、Odesza「A Moment Apart」(2017年)などがジャンルの定番リファレンスとして挙げられることが多いです。これらの曲を聴き、サイドチェインのポンピング感やボーカルチョップの入れ方を耳で分析することも大切な練習になります。
まとめ:フューチャーベース制作は「聴いて・試して・修正」の繰り返し
フューチャーベース制作の核心は、サイドチェインによるグルーヴの演出とボーカルチョップによる情感の付加にあります。設定の数値はあくまで出発点で、最終的には自分の耳で判断してパラメーターを動かすことが上達の鍵です。
はじめは「キック+ウォブルシンセ+サイドチェイン」だけのシンプルな構成から試してみましょう。それだけでもフューチャーベースらしいループが完成し、制作の手応えを実感できます。ボーカルチョップやアレンジはその次のステップとして取り組むのがおすすめです。
「独学だと何が正解かわからない」「もっと効率よく上達したい」という方は、ぜひコアミュージックスクールの無料体験レッスンをご活用ください。川口駅から徒歩2分の教室で、現役プロ講師によるマンツーマン指導を受けられます。Cubaseを使ったサイドチェインの設定やボーカルチョップの実践的な作り方を、あなたのペースで丁寧に教えます。
まずは気軽に、無料体験レッスンへのお申し込みからどうぞ。実際にDAWを操作しながら、フューチャーベース制作の第一歩を一緒に踏み出しましょう。




