「ベースを重ねているのに、なぜか音が厚くならない」「低音が出ているはずなのにスピーカーで聴くとスカスカに聞こえる」——DTMでベース音作りに挑戦し始めると、こうした悩みに直面することがよくあります。その原因の多くは、サブベース(20〜80Hz付近)とミッドベース(80〜300Hz付近)が混在したまま処理されていることにあります。
この記事では、プロのトラックで使われている「サブベースとミッドベースの分離」という考え方を軸に、DAW上での具体的な音作りと処理の手順を解説します。EQの数値やコンプレッサーの設定値も具体的に示しますので、初心者〜中級者の方が実際の作業に落とし込めるよう構成しています。
結論から言えば、サブベースとミッドベースを「役割別」に分けて処理することが、プロらしい低音の土台を作る最短ルートです。ここからその理由と手順を詳しく見ていきましょう。
サブベースとミッドベースとは何か?周波数帯域の基礎知識
ベース音作りを語る上で、まず周波数帯域の分類を整理しておきましょう。一般的に「ベース帯域」と呼ばれる範囲は20〜300Hz程度ですが、この中でも役割がはっきり違うゾーンが存在します。
周波数帯域ごとの役割一覧
| 帯域名 | 周波数範囲 | 聴こえ方・役割 | 主な担当楽器 |
|---|---|---|---|
| サブベース | 20〜80Hz | 体で感じる「圧」、音程感は薄い | サイン波、808ベース、サブオシレーター |
| ミッドベース | 80〜300Hz | 音程感・太さ・温かみを感じる | エレキベース、シンセベース、キックの胴鳴り |
| ローミッド | 300〜500Hz | こもり感・厚み(過剰だと濁る) | ギター、ピアノ、ボーカルの低域成分 |
サブベースは、クラブシステムやサブウーファーを通して「体に響く振動」として知覚されます。一方ミッドベースは、一般的なスピーカーやイヤホンでも聞き取れる「ベースの音程と太さ」を担います。この2つを別物として捉えることが音作りの第一歩です。
なぜ分離が必要なのか?
両者を分離せず一つのトラックで処理してしまうと、以下の問題が起きやすくなります。
- コンプレッサーをかけたとき、サブの揺れがミッドの音程感を不安定にする
- EQでサブを持ち上げようとすると、ミッド帯域まで一緒に持ち上がって音が濁る
- ラップトップスピーカーやイヤホンで確認したときに低音がまったく聞こえなくなる
- マスタリングで音量を上げようとすると低域で詰まる(ラウドネス問題)
特に小型スピーカー環境でのリスニング確認は重要で、AppleのAirPodsやYAMAHA HS5などの小型モニターでは80Hz以下が十分再生されないことも多いです。サブとミッドを分離しておくことで、どの再生環境でも破綻しないミックスを実現できます。
サブベースとミッドベースを分ける2つの基本アプローチ
実際のDAW作業で「分離」を実現するには、大きく分けて2つのアプローチがあります。
①レイヤリング:音源そのものを2トラックに分ける
最もシンプルで効果的な方法です。ベーストラックを2本用意し、それぞれに役割を持たせます。
- サブベーストラック:サイン波を主体としたシンプルなオシレーター(例:NI Massive XのSine波、Vital、Serum)を使い、80Hz以上をローカットする
- ミッドベーストラック:倍音成分の豊かなサウンドデザイン(例:のこぎり波+フィルター)を使い、80Hz以下をハイパスフィルターで除去する
Cubaseの場合、それぞれのインサートにStudio EQを挿入し、サブ側は80Hzあたりにローパスフィルター(LPF)を12〜24dB/oct、ミッド側は80Hzあたりにハイパスフィルター(HPF)を24dB/octでかけると、スッキリと分割できます。
②ミッドサイド(MS)処理を活用する
サブベースは必ずモノラルで処理することが基本です。20〜80Hz帯域をステレオにすると、低音が「位相打ち消し」を起こし、モノラル再生時に音が消えてしまいます。Cubaseの「Stereo Combined Panner」やサードパーティのMS処理プラグインを使い、低域をモノラルに固定することで安定したサブを確保できます。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が実際にレッスンで生徒さんに最初に教えるのが、「サブとミッドは別トラックに分けてしまう」という習慣です。Cubaseでは、サブ用トラックのStudio EQでローパスを80Hzに設定し、スロープを24dB/octにするだけで音がすっきり整理されます。「低音が出ているのに迫力がない」とおっしゃる方のほとんどが、この分離をしていないことが原因でした。最初から分けて作る癖をつけると、後のコンプやEQ処理がとても楽になります。
サブベースの音作り:シンプルさが命
サブベースは「シンプルであるほど良い」という原則があります。余計な倍音が多いと、ミッドベースと混在して音が濁ります。
サブベース音源の選び方
- サイン波(Sine):最もクリーンなサブ。Serumの単体サイン波オシレーター、VitalのSineが定番
- 808ベース:Hip HopやトラップではRoland TR-808のキックを伸ばした「808ベース」が広く使われる。サンプルパックでは「808」と検索すると多数ヒット
- サブオシレーター付きシンセ:NI Massive X、Serumなどはサブオシレーターを単体でルーティングできる
サブベースのEQ処理(数値例)
| 処理内容 | 周波数 / 設定値 | 目的 |
|---|---|---|
| ハイパスフィルター | 20Hz / 12dB/oct | 超低域のルンブルノイズ除去 |
| ローパスフィルター | 80〜100Hz / 24dB/oct | ミッド帯域への漏れを防ぐ |
| ピークEQ(任意) | 50〜60Hz / +2〜3dB | サブのコアとなる音圧感の強調 |
サブベースのコンプレッサー設定
サブベースへのコンプは「音量の安定化」が目的です。アタックタイムを遅めに設定して(20〜40ms程度)、サブの立ち上がりを残しつつ、リリースタイムを100〜200ms程度にすると音楽的なポンピングを避けられます。レシオは4:1前後が扱いやすく、GRは3〜6dB程度が目安です。
ピッチとモノラル化の注意点
サブベースは必ずモノラル(パンナーをセンターに固定)で使用します。また、ピッチが不安定な808ベースにはPitchプラグインやMIDIのピッチベンドで正確な音程を確保することが大切です。曲のキーがAマイナーであればA1(55Hz)〜A2(110Hz)の範囲をメインとして使うのが基本です。
ミッドベースの音作り:倍音と動きで「聴かせる」低音を作る
ミッドベースは、実際に音程として聴こえる帯域です。ここをいかに豊かに、かつ他の楽器と干渉しないように整えるかがミキシングの腕の見せどころです。
ミッドベースに向いている音源の特徴
- のこぎり波(Sawtooth)や矩形波(Square)など倍音が豊富なオシレーター
- フィルターを使ってカットオフを動かすことで「うねり」を作れるもの
- ディストーション・サチュレーターで倍音を追加できるもの
具体的なプラグインとしては、Native Instruments Massive X、Xfer Records Serum、またはロゴスのAnalogueシンセ系サウンドが使いやすいです。エレキベースのDI音源をNI Kontakt上で扱うKomplete Ultimate付属の「Scarbee Bass」シリーズも、ミッドベースの質感として非常にリアルです。
ミッドベースのEQ処理(数値例)
| 処理内容 | 周波数 / 設定値 | 目的 |
|---|---|---|
| ハイパスフィルター | 60〜80Hz / 24dB/oct | サブ帯域を除去し分離を明確に |
| ローミッドのカット | 200〜300Hz / −2〜4dB | こもり感の軽減 |
| プレゼンスのブースト | 700Hz〜1kHz / +1〜2dB | 小型スピーカーでの聴こえを改善 |
サチュレーションで「見えない音」を聴こえるようにする
サブベースは小型スピーカーでは再生されません。その解決策として「高調波歪み(ハーモニクス)の追加」があります。Softtubeの「Saturation Knob」やiZotope Neutronのサチュレーター、UAD Studer A800などを使い、サブベーストラックにわずかなサチュレーションをかけると、80〜200Hz付近に倍音が発生します。これにより、サブウーファーのない環境でも「あの低音の存在感」が伝わるようになります。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が現場でよく使うテクニックが、サブベーストラックにSaturation KnobをかけてDriveをごくわずか(10〜15%程度)に設定する方法です。これだけで、イヤホンやスマホスピーカーでもベースの存在感が伝わるようになります。レッスンでは「サブは感じるもの、ミッドは聴くもの」という言い方でお伝えしています。この感覚を掴んでもらうと、ミックスバランスの取り方が一気に変わります。
サブとミッドの「重なり」をコントロールする:クロスオーバー設計
サブベースとミッドベースを分けても、クロスオーバーポイント(分割周波数)の設計が甘いと、低音がスカスカになったり逆に過剰になったりします。
クロスオーバー周波数の選び方
一般的なクロスオーバーポイントは60〜100Hzの範囲で設定されることが多いです。ジャンルによって適した値が異なります。
- トラップ・ヒップホップ:60〜80Hz付近でスパッと切る。サブを厚く、ミッドは細め
- ハウス・テクノ:80〜100Hz付近。キックとベースの住み分けが重要
- EDM・ダブステップ:100Hz前後。ウォブルベースのミッド帯域を活かす
- ポップス・バンドサウンド:100〜120Hz付近。エレキベースの音程感を保つ
位相問題への対処
フィルターを使って分割すると、クロスオーバーポイント付近で位相がずれる「位相回転」が起きることがあります。これを確認するには、CubaseのMixConsoleでモノラルモニタリングに切り替えてチェックする方法が有効です。また、Waves S1 Stereo Imager、iZotope Neutron 4のTransient Shaperなどを使って位相を揃えるか、リニアフェーズEQを使うことで問題を回避できます。
キックとベースの住み分け:最も重要な周波数調整
低音域でもう一つ避けられない課題が「キックとベースの衝突」です。どちらも50〜150Hzを中心としているため、処理を怠るとお互いが「埋もれる」状態になります。
サイドチェインコンプレッションの設定
定番の解決策はサイドチェインコンプレッションです。キックのアタック音に連動してベースの音量を一瞬下げることで、キックが主役の瞬間を作ります。
- Cubaseの場合:ベーストラックのコンプレッサー(例:Squasher)でサイドチェイン入力をキックトラックに設定
- アタック:1〜5ms(キックの立ち上がりに素早く反応)
- リリース:50〜150ms(キックの音が落ち着くのに合わせて戻す)
- レシオ:4:1〜8:1、GRは−3〜−6dB程度
EQによる「周波数の棲み分け」
サイドチェインだけに頼らず、EQで周波数的にも住み分けを図るのがプロの現場では一般的です。
| 楽器 | 強調する帯域 | カットする帯域 |
|---|---|---|
| キック | 50〜80Hz(パンチ)、2〜5kHz(アタック) | 100〜200Hz(こもり) |
| サブベース | 40〜60Hz(圧) | 80Hz以上をLPFでカット |
| ミッドベース | 80〜150Hz(太さ)、700Hz〜1kHz(存在感) | 60〜80Hz以下をHPFでカット |
実践チェックリスト:音作りとミックスの確認手順
ベース音作りが完成したら、以下のチェックリストで仕上がりを確認しましょう。
ミックスチェックのポイント
- ✅ モノラルチェック:Cubaseのモノラルモニタリングで低音が消えないか確認(位相打ち消しの検出)
- ✅ 周波数アナライザー確認:Cubaseのフリークエンシーやvoxengo SPANで、サブとミッドの帯域分布を視覚的に確認
- ✅ 小型スピーカー確認:ラップトップ内蔵スピーカーやスマートフォンで再生し、ミッドベースの存在感を確認
- ✅ ラウドネス確認:CubaseのラウドネスメーターでトラックのINTEGRATED LUFS値が−14〜−12LUFS(ストリーミング基準)になっているか確認
- ✅ ダイナミクス確認:ベーストラックのコンプがかかりすぎていないか(リダクションが常時−10dB以上なら過剰)
所要時間の目安
| 作業内容 | 初心者 | 中級者 |
|---|---|---|
| サブ・ミッドのレイヤー設計 | 60〜90分 | 20〜30分 |
| EQ・コンプ処理 | 45〜60分 | 15〜20分 |
| キックとの住み分け調整 | 30〜60分 | 10〜15分 |
| ミックスチェック全工程 | 30〜40分 | 10〜15分 |
初心者の方が一つのベーストラックをしっかり仕上げるまでに、最初は合計3〜4時間かかっても十分です。慣れることで作業スピードは必ず上がります。
DTMのベース音作りをもっと効率よく身につけるには
今回解説した「サブベースとミッドベースの分離」は、理論として読んで理解することと、DAWで実際に手を動かして身につけることの間に大きな差があります。特にEQのカット・ブーストの「耳での判断」や、コンプのアタック・リリースの「音楽的な感覚」は、試行錯誤を繰り返すことで初めて自分のものになります。
独学では「自分の設定が正しいのかどうか」が確認できないことが最大の障壁です。コアミュージックスクールのDTM+作曲講座では、Cubaseを使った音作りからミキシングまでをマンツーマンで指導しています。「なぜこの設定にするのか」という判断の根拠まで丁寧に説明しますので、知識がスキルとして定着するスピードが独学と大きく変わります。
また、ベース音作りはギターや鍵盤などの実楽器演奏の経験があるとさらに理解が深まります。コアミュージックスクールでは、全9コースを展開しており、DTMと並行してギターやボーカルなどの実技レッスンも受講いただけます。音楽的な耳を育てながらDTMスキルを伸ばしたい方にとっても、複合的に学べる環境が整っています。
まとめ:ベース音作りの核心は「分けて・整えて・聴かせる」
今回ご紹介したベース音作りのポイントを整理します。
- サブベース(20〜80Hz)とミッドベース(80〜300Hz)は、役割が異なるため別トラックで設計・処理する
- サブはシンプルな波形(サイン波)+LPF、ミッドは倍音豊富な波形+HPFで明確に分割する
- サブベースは必ずモノラルで扱い、位相問題を防ぐ
- サブにサチュレーションを軽くかけることで、小型スピーカーでも存在感を出せる
- キックとのサイドチェイン+EQによる周波数の棲み分けが、プロらしい低音の鍵
- 最終確認はモノラル再生・小型スピーカー・ラウドネスメーターの3点セットで行う
ベース音作りは地味に見えて、トラック全体のクオリティを左右する最重要工程の一つです。一つひとつの処理の「なぜ」を理解しながら進めることで、再現性のある音作りのスキルが身につきます。
もしDAW操作や音作りの判断基準に迷っている方は、ぜひ一度プロ講師によるマンツーマンのレッスンを体験してみてください。コアミュージックスクールの無料体験レッスンでは、実際にCubaseを使ってあなたの制作上の疑問に直接お答えします。川口駅から徒歩2分というアクセスの良さも、継続しやすい理由の一つです。ベース音作りの悩みを持ち込んでいただければ、その日から使える具体的なアドバイスをお伝えします。




