「Serumをダウンロードしたけど、ノブだらけで何から触ればいいかわからない」——DTMを始めた方から、こんな相談をよく受けます。Xfer RecordsのWavetable SynthesizerであるSerum(セラム)は、現代のEDM・ポップス・ハウス・フューチャーベースなど幅広いジャンルで使われている定番ソフトシンセです。しかし画面に並ぶパラメーターは多く、初見では何をすべきか迷いがちです。
この記事では、Serumの基本構造から実践的なサウンドメイクの手順まで、現場で通用する知識を順を追って解説します。「とりあえず音が出た」で終わらず、自分のトラックで使えるレベルに引き上げることを目標にしています。まずSerumがどんなシンセなのかを把握し、次にオシレーター→フィルター→エンベロープ→エフェクトの順でパラメーターを理解していきましょう。
なお、実際にDAWと連携しながら学びたい方は、コアミュージックスクールのDTM・作曲講座で個別指導を受けることもできます。現役プロ講師がCubaseとSerumを使った制作フローを丁寧に教えています。
Serumとは何か|ウェーブテーブル合成の基礎知識
Serumは2014年にXfer Recordsがリリースしたウェーブテーブル・シンセサイザーです。開発者のSteve Dillonが「理想的なウェーブテーブルシンセ」を目指して設計し、ビジュアルフィードバックを重視したUIが特徴です。価格はサブスクリプション形式(月額約$9.99 / 年払い約$99)またはプラグインバウチャー購入(約$189)で入手できます。
ウェーブテーブル合成とは
ウェーブテーブル合成とは、あらかじめ記録された波形(ウェーブテーブル)を連続的に読み出して音を生成する方式です。アナログシンセの正弦波・のこぎり波・矩形波のような基本波形だけでなく、複雑なスペクトラムを持つ波形も扱えるため、サイン波から倍音豊かなリードサウンドまで一つの音源で作成できます。Serumのウェーブテーブルは1テーブルあたり最大256フレームを持ち、フレームをスキャンすることでサウンドが滑らかに変化します。
SubtractiveSynthとの違い
よく比較されるSubtractiveシンセ(MoogやMinimoogを模した方式)は、倍音の豊かな波形を生成しフィルターで削るアプローチです。Serumもフィルターを搭載しているためSubtractiveの手法も使えますが、ウェーブテーブルのフレームスキャンで音色変化を作れる点が大きな違いです。EDMで聞こえるいわゆる「うねり感」のあるサウンドの多くは、このフレームスキャンによるものです。
Serumの画面構成と主要セクション
まずSerum全体のレイアウトを把握しましょう。UIは大きく以下のセクションに分かれています。
| セクション名 | 主な役割 | よく触るパラメーター |
|---|---|---|
| OSC A / OSC B(オシレーター) | 音の原型(波形)を生成 | Wavetable選択、WT POS、Detune、Unison |
| Sub OSC / Noise | 低域補強・ノイズ付加 | 波形選択、Level |
| FILTER | 特定周波数帯域を削る・強調 | Cutoff、Resonance、Filter Type |
| ENV(エンベロープ) | 音量・フィルターの時間変化 | Attack、Decay、Sustain、Release |
| LFO | 周期的な変化を加える | Rate、波形、Destination |
| FX | エフェクト処理 | Reverb、Distortion、Chorus、Delay |
| Matrix(マトリクス) | モジュレーション経路の管理 | Source→Destination、Amount |
最初に覚えるべき操作は「OSC A のウェーブテーブル選択」と「ENV 1の調整」の2つです。この2点だけでも、プリセットをベースにした音作りが格段にやりやすくなります。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が実際にレッスンで生徒さんに最初にお伝えするのは、「全部のノブを触ろうとしない」ということです。Serumはパラメーターが多く見えますが、OSC AのWT POSとENV 1のAttack/Decayだけを動かすだけで、音の雰囲気が大きく変わります。CubaseのインストゥルメントトラックにSerumを立ち上げたら、まずプリセットをロードして、その状態でWT POSノブだけをゆっくり動かしてみてください。音の変化を耳と目で同時に確認できることがSerumの大きな強みです。
オシレーターの設定|音作りの起点を理解する
音作りはオシレーターから始まります。Serumには OSC A・OSC B・Sub・Noiseの4系統があります。まずOSC Aだけに集中するのが効率的です。
WT POS(ウェーブテーブルポジション)の使い方
WT POSはウェーブテーブルのどのフレームを再生するかを指定するノブです。例えばデフォルトの「Basic Shapes」ウェーブテーブルでは、WT POSを左から右にスキャンするにつれて正弦波→三角波→のこぎり波→矩形波と波形が変化します。このWT POSをLFOやエンベロープでモジュレーションすることが、EDMサウンドメイクの核心です。
Unisonで音を太くする
UnisonはOSC Aを複数のボイスで同時に鳴らし、わずかにピッチをずらすことで厚みを出す機能です。Voice数は1〜16まで設定でき、Detuneの値を1〜10centの範囲で調整します。EDMのリードシンセでは4〜8ボイス、Detune 3〜7cent程度がよく使われる設定です。ただしUnison数を増やすほどCPU負荷が上がり、低音域でも音が濁りやすくなるため、Sub OscはUnisonをオフにするのが一般的です。
OSC BとDetune Blend
OSC Bは別のウェーブテーブルを重ねるか、OSC Aとわずかにピッチをずらして使うかの2通りの使い方があります。OSC AをのこぎりWave、OSC Bを矩形波にして両方鳴らすことで、より倍音が豊かなサウンドになります。OSC BのCoarse(半音単位のピッチ)を+7半音(完全5度)に設定するだけで、いわゆる「パワーコードシンセ」の音色が作れます。
フィルターとエンベロープ|音を”動かす”仕組み
オシレーターで作った波形はそのままでは単調です。フィルターとエンベロープを組み合わせることで、音に時間的な変化とキャラクターが生まれます。
フィルターの種類と選び方
Serumのフィルターは24種類以上のフィルタータイプを搭載しています。EDMでよく使うのは以下の3タイプです。
- MG Low 24(Moogスタイル24dB/octローパス):クラシックなアナログ感。カットオフを下げるとウォームな中低音が残る。フューチャーベースのパッドに頻用。
- Dirty(ウェーブシェイパー付きローパス):自然な歪みが加わりアグレッシブなリードに最適。ダブステップやドラムンベースで活躍。
- French LP:フランス製アナログシンセを模した柔らかいキャラクター。カットオフ700〜2,000Hz付近でハウス系パッドに使いやすい。
エンベロープ(ADSR)の設定目安
ENV 1はデフォルトでボリュームに割り当てられています。サウンドの用途によって設定値が異なるので、以下を目安にしてください。
| 用途 | Attack | Decay | Sustain | Release |
|---|---|---|---|---|
| パーカッシブなリード | 0〜5ms | 200〜400ms | 0〜20% | 50〜200ms |
| パッド・コード | 200〜800ms | 300〜600ms | 60〜80% | 800ms〜2s |
| ベースライン | 0〜10ms | 100〜300ms | 50〜70% | 50〜150ms |
| フューチャーベース系ボーカルチョップ | 5〜20ms | 300〜700ms | 0〜30% | 300〜600ms |
ENV 2はフィルターのCutoffにアサインするのが定番です。ENV 2のDecayを400〜600ms、Sustainを0%にした状態でフィルターCutoffへのAmount(モジュレーション量)を上げると、音の立ち上がりで高域が明るく開きその後絞られる、いわゆる「フィルタースウィープ」が完成します。この動きが「EDMらしい音」の大きな要素の一つです。
LFOとモジュレーション|サウンドに動きをつける
LFO(Low Frequency Oscillator)は音に周期的な揺れを与えます。Serumには4つのLFOがあり、それぞれを異なるパラメーターにアサインして複雑なモジュレーションを作れます。
LFOの基本設定
Rateは周期を設定します。EDMのトラックでは音楽的なタイミングに合わせるためにBPMシンクが有効です。例えばBPM 128のトラックでLFO Rateを「1/4」(四分音符)にすると、1拍ごとにサウンドが一周期変化します。フューチャーベースで定番の「うわんうわん」というコードワブルは、LFOをフィルターCutoffまたはWT POSにアサインし、Rate 1/4〜1/8、SineまたはSin Triあたりの波形で作ることが多いです。
ドラッグ&ドロップによるモジュレーションの設定手順
- LFO 1のラベルをマウスでドラッグする(カーソルが変化する)
- モジュレーションしたいパラメーター(例:フィルターCutoffノブ)の上でドロップする
- ノブの周囲に緑色のリングが表示され、Matrixにエントリーが追加される
- Matrixタブでモジュレーション量(Amount)を数値で微調整する
この手順はマクロ(Macro 1〜4)への割り当ても同様です。マクロを使えばDAWのオートメーションで演奏中に複数のパラメーターを同時に動かせるため、ライブパフォーマンスや楽曲のビルドアップで活用できます。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が現場でよく使うテクニックは、Serum側でMacro 1にフィルターCutoffとWT POSの両方をアサインしておき、CubaseのCC11(エクスプレッション)でMacroをオートメーションする方法です。ノブ一本でサウンドのキャラクターが劇的に変化するので、エモーショナルな表現が出しやすくなります。レッスンではこのMacroの使い方を実際の楽曲データを見ながら教えているのですが、「これだけでプロっぽく聞こえる」と驚いてもらえることが多いです。
FXセクションの活用|Serum内蔵エフェクトを使い切る
SerumのFXタブには8系統のエフェクトが内蔵されており、外部プラグインなしでかなり整った音色まで仕上げられます。
主要エフェクトの設定指針
- Distortion(歪み):HyperとSoftClipがよく使われる。Amount 10〜30%で軽い倍音付加、50%以上でアグレッシブな歪みに。DistortionはLow Cutを100〜200Hz程度に設定すると低域の濁りを防げる。
- Chorus:Rateを0.5〜1.5Hz、Depth 20〜40%でアナログシンセらしい広がりが出る。Unisonと併用するとサウンドが広くなりすぎる場合があるので一方に絞るのが無難。
- Reverb:EDMでは長いReverbはミックスを濁らせることが多い。Sizeを30〜50%、Mix 15〜25%に抑え、DryなサウンドにはDAW側のSend Reverbで統一感を出す方が扱いやすい。
- Delay:PingPong DelayをBPMシンク(1/8または1/16付点)で設定し、Filterの右側にあるHP/LPフィルターを使って超低域と高域を削ると、ディレイ音がトラックに馴染みやすくなる。
- Compressor:Attack 20〜30ms、Release 100〜200ms、Ratio 3:1〜4:1がリード/ベース共通の出発点。Makeupゲインで入力レベルと同等になるように揃える。
- EQ:Sub OSCを使う場合は20〜30Hz以下をHigh Passでカット。リードシンセは2kHz〜4kHz付近を1〜2dBブーストすると存在感が増す。
FXのオン/オフ順序の重要性
FXセクションは上から下へ信号が流れます。DistortionをReverbの後に置くと残響音まで歪むため、基本的にはDistortion → Chorus → EQ → Compressor → Reverb → Delayの順が扱いやすいです。ただし意図的にReverb→Distortionを通すことで「壊れた空間感」を演出する手法もあり、ジャンルに応じて変えてみてください。
実践:フューチャーベース系コードサウンドの作り方
ここまでの知識を統合して、現代EDMの代表的なサウンドである「フューチャーベース系コードワブル」を一から作る手順を示します。所要時間の目安は15〜30分です。
ステップ1:OSC Aの設定(約5分)
- Serumを立ち上げ、プリセットを「Init」(初期化状態)にリセット
- OSC AのウェーブテーブルをBasic Shapesから「Vocal」または「Human Voice」系に変更(プリセットライブラリに収録)
- Unison Voicesを6に、Detuneを5centに設定
- WT POSをEnv 2でモジュレーション(Matrixでアサイン、Amount +30〜50)
ステップ2:フィルターの設定(約5分)
- Filter TypeをMG Low 24に設定
- CutoffをおよそC3相当の周波数(約130Hz)から始め、Resonanceを20〜30%に設定
- ENV 2をFilter CutoffにAmount +60〜80でアサイン
- ENV 2のDecayを500ms、Sustainを0%に設定
ステップ3:LFOの設定(約5分)
- LFO 1の波形をSineに、RateをBPMシンク1/4に設定
- LFO 1をFilter CutoffにAmount +15〜25でアサイン(ENV 2と重複させる)
- LFO 1をWT POSにも Amount +10〜20でアサイン
ステップ4:FXの設定(約5〜10分)
- Distortion(HyperまたはSoftClip)をAmount 15%でオン
- Chorus:Rate 0.8Hz、Depth 30%
- Reverb:Size 40%、Mix 20%
- Delay:PingPong、Rate 1/8付点、Mix 20%
この設定でCubase上でCmaj7コード(C・E・G・B)を四分音符でインプットすると、フューチャーベースらしいコードワブルサウンドが鳴ります。あとはWT POSのモジュレーションAmountやLFO RateをMacroにまとめ、楽曲のビルドアップに合わせてオートメーションをかけていくのが制作の定番フローです。
Serum学習のロードマップ|習得にかかる時間の目安
Serumの習得には段階があります。独学か指導ありかでも大きく変わりますが、一般的な目安は以下の通りです。
| 習得レベル | できること | 独学での目安時間 | 指導ありでの目安時間 |
|---|---|---|---|
| 入門 | プリセット使用・基本パラメーター理解 | 5〜15時間 | 2〜5時間 |
| 初級 | ADSRとフィルターで音色変更 | 20〜40時間 | 8〜15時間 |
| 中級 | LFO・モジュレーションで音を動かす | 50〜100時間 | 20〜40時間 |
| 上級 | カスタムウェーブテーブル作成・複雑なMacro設計 | 150時間〜 | 60〜100時間 |
独学だと「なぜこのパラメーターを動かしたのか」という判断軸が身につきにくく、同じ操作を何度も調べなおす時間のロスが発生します。DTM・作曲講座では、生徒さんの制作中の楽曲を素材にしてSerumの設定を一緒に確認していくため、汎用知識と実践が同時に身につく環境になっています。
SerumをDAWと組み合わせる際の注意点
CPU負荷の管理
SerumはUnison Voices数・FXの種類・ポリフォニック数によってCPU負荷が変わります。Unison 8ボイス以上のインスタンスを複数立ち上げるとバッファサイズ256samplesでも処理落ちするケースがあります。制作中はバッファサイズを512〜1024samplesに上げ、完成後にフリーズトラックやバウンスでCPUを節約するのが一般的なワークフローです。
ピッチとチューニングの整合性
OSC BでDetuneを使う際、意図せず半音ずれた状態で制作を続けると他のトラックと不協和が生じます。Coarseノブの値を必ず確認し、意図的なピッチシフト(+7半音など)以外は0semitoneに保ってください。また、SerumのマスターチューニングがデフォルトでA=440Hzになっていることも確認しておきましょう。
プリセット管理とファイル整理
制作が進むと独自のプリセットが増えます。Serum側でUserフォルダーにサブフォルダーを作り、ジャンル別(House / Future Bass / Ambient など)または楽器別(Lead / Pad / Bass / SFX)に分類しておくと作業効率が上がります。プリセット名には日付またはプロジェクト名を入れておくと後から探しやすいです。
まとめ:Serumは”理解してから触る”と習得が早い
Serumは多機能に見えますが、OSCでウェーブテーブルを選ぶ→Filterで倍音を整える→ENVで時間変化をつける→LFOで周期的に動かす→FXで仕上げるという基本フローは一貫しています。この流れを理解してから操作することで、プリセットに頼らない「自分の音」が作れるようになります。
また、Serumで作ったサウンドをどの楽曲のどの場面で使うかという「配置の判断」も、サウンドデザイン同様に重要です。音楽理論や編曲の知識と組み合わせることで、Serumの設定が「なぜこの音にすべきか」という根拠を持って決められるようになります。
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