「自分でミックスした曲をSpotifyにアップしたら、他の曲より音が小さくて恥ずかしかった」「書き出したWAVをYouTubeにアップしたら音量がバラバラで統一感がない」――DTMで楽曲制作をしている方なら、こうした経験が一度はあるのではないでしょうか。原因の多くはラウドネス(知覚音量)の調整不足にあります。
結論から先にお伝えします。Spotify・Apple Music・YouTube・Amazon Musicなど主要ストリーミングサービスは、それぞれ−14 LUFS前後を基準にラウドネスノーマライゼーション(自動音量均一化)を行っています。つまり、過剰に音圧を上げてもプラットフォーム側で下げられてしまい、むしろ音質が劣化するケースがあります。適切なターゲットラウドネスを理解してマスタリングすることが、プロの音に近づく最短ルートです。
この記事では、ラウドネスの基本概念から各プラットフォームの数値基準、DAW(Cubase)での具体的な設定手順、そしてよくある失敗パターンまでを、コアミュージックスクールのDTM講師・古賀稔宏の現場知見を交えながら解説します。
ラウドネスとは何か?dBとLUFSの違いを整理する
音量を表す指標には複数の種類があり、混同しやすいポイントです。まず基本的な用語を整理しておきましょう。
dBFS(デジタルフルスケール)
デジタルオーディオにおける瞬間的な音の大きさを表す単位です。0 dBFSが上限(クリッピング点)で、それ以上の音はデジタル歪みを起こします。波形の「ピーク」を見るときに使います。ただし、人間の耳が感じる「うるさい・静か」とは必ずしも一致しません。
LUFS(Loudness Units relative to Full Scale)
人間の聴覚特性に近い形で音量を測定する単位です。EBU R128という国際規格に基づいており、ストリーミング各社のラウドネスノーマライゼーションはこの指標を採用しています。「Integrated LUFS(インテグレーテッドLUFS)」は楽曲全体の平均的な知覚音量を表し、マスタリングのターゲットとして最も重要な数値です。
True Peak(トゥルーピーク)
デジタル→アナログ変換時に発生する「インターサンプルピーク」を含めた最大音量の指標です。ストリーミング配信では−1.0 dBTP以下に収めることが一般的な推奨値とされています。これを超えると、配信後のエンコード処理で歪みが生じることがあります。
主要ストリーミングサービスのラウドネス基準一覧
各プラットフォームのラウドネスノーマライゼーション基準は以下の通りです(2024年時点の公開情報・業界標準に基づく)。
| サービス名 | ターゲットラウドネス | True Peak推奨値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Spotify | −14 LUFS(統合) | −1.0 dBTP | ノーマライゼーションはデフォルトON |
| Apple Music | −16 LUFS(統合) | −1.0 dBTP | Sound Checkによる補正あり |
| YouTube | −14 LUFS(統合) | −1.0 dBTP | ラウドな動画は自動で下げられる |
| Amazon Music | −14 LUFS(統合) | −2.0 dBTP | HD配信では特に音質への影響が大きい |
| Tidal | −14 LUFS(統合) | −1.0 dBTP | ロスレス配信のため音質劣化に敏感 |
| SoundCloud | −14 LUFS(統合) | −1.0 dBTP | ノーマライゼーションは任意ON/OFF |
注目すべきはApple Musicだけ−16 LUFSとやや低めであるという点です。クラシックやジャズなど、ダイナミクスを活かした楽曲を配信する場合はApple Musicの基準に合わせると、より自然な仕上がりになります。ポップス・EDMなど幅広いジャンルを想定する場合は、−14 LUFS / True Peak −1.0 dBTPを基本ターゲットとするのが現実的です。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が実際にレッスンで生徒さんに話しているのですが、「なぜか自分の曲だけ音が小さく聴こえる」という悩みの9割はラウドネスの数値を意識していないことが原因です。Cubaseのメータープラグイン「Supervision」でインテグレーテッドLUFSをリアルタイムで確認しながらリミッターを調整する練習をするだけで、配信後の聴こえ方がガラッと変わります。最初は−14 LUFSという数字だけ覚えておけば十分です。
Cubaseでラウドネスを測定・調整する具体的な手順
ここでは、Cubaseを使った実践的なラウドネス調整の流れを解説します。他のDAWでも考え方は同じです。
ステップ1:Supervisionでインテグレーテッドラウドネスを確認する
Cubase付属のマルチアナライザー「Supervision」を、マスターアウトチャンネルにインサートします。「Loudness」モジュールを表示すると、Integrated(統合)・Momentary(瞬間)・Short-term(短期)の3種類のLUFS値とTrue Peakをリアルタイムで確認できます。まず楽曲を最初から最後まで再生し、Integrated LUFSの値をメモしてください。
ステップ2:マスターバスにリミッターを設定する
Cubase付属の「Brickwall Limiter」または「Maximizer」をマスターアウトの最後段にインサートします。設定のポイントは以下の通りです。
- Ceiling(シーリング):−1.0 dBTP に設定(True Peakを超えないため)
- Release(リリース):30〜60ms程度から始めて、音楽的に不自然でないか耳で確認
- Input Gain(インプットゲイン):TargetのLUFSが−14前後になるよう少しずつ上げていく
リミッターのゲインリダクションが常に3 dB以上かかっている状態は、ミックスの段階でトラックの音量バランスやEQを見直すサインです。リミッターで無理に音圧を稼ごうとすると、トランジェントが潰れてドラムの抜け感や声のリアルさが失われます。
ステップ3:サードパーティ製ラウドネスメーターの活用
より精度の高い計測には、無料でも使える専用プラグインが便利です。代表的なものを以下に紹介します。
- Youlean Loudness Meter 2(無料版あり):Integrated LUFS、True Peak、LRA(ラウドネスレンジ)を見やすく表示。プリセットにSpotify・YouTube等のターゲットが用意されている。
- iZotope Insight 2(有料・約35,000円):プロのマスタリングエンジニアも使用する高精度なメーター。スペクトラム・ステレオフィールド表示も充実。
- MeldaProduction MLoudnessAnalyzer(無料):EBU R128準拠の測定ができるシンプルなツール。
ステップ4:書き出し設定とフォーマット
Cubaseのオーディオミックスダウンで書き出す際の推奨設定は以下の通りです。
- フォーマット:WAV(非圧縮)またはAIFF
- ビット深度:24bit(配信マスターとして)
- サンプルレート:44,100 Hz(CD品質・最も互換性が高い)または48,000 Hz
- ディザリング:24bit書き出しの場合は不要。16bitに変換する際はNoise Shaping付きのディザーを適用する。
配信代行サービス(TuneCore・DistroKid等)への入稿は、多くの場合WAV 16bit or 24bit / 44,100 Hzが受け付けられます。マスター保存用は必ず24bitで残しておきましょう。
ラウドネス調整でよくある失敗パターンと対処法
レッスンの現場でよく見かける失敗を整理しました。自分のプロジェクトに当てはまるものがないか確認してみてください。
失敗1:「音圧は高いほどよい」という先入観で歪みが生まれる
かつてCD時代は「ラウドネス戦争」と呼ばれるほど音圧競争が激しく、−6 LUFS前後まで圧縮された楽曲も存在しました。しかしストリーミング時代では、−14 LUFSを超えてラウドに仕上げた楽曲はプラットフォーム側でボリュームダウンされます。その際、過剰なリミッティングによるトランジェント歪みだけが残り、音質的に損をする結果になります。
失敗2:ピークメーターだけ見てLUFSを確認していない
波形のピークが−3 dBFS以内に収まっていても、サステインの長い低音(60〜100 Hzのキック・ベース)が多い楽曲はLUFS値が予想以上に高くなっていることがあります。必ずLUFSメーターで最終チェックを行ってください。
失敗3:LRA(ラウドネスレンジ)を無視している
LRA(Loudness Range)は楽曲のダイナミクスの幅を示す指標で、単位はLU(Loudness Unit)です。
- クラシック・映画音楽:LRA 15〜25 LU程度(ダイナミクスが大きい)
- ポップス・ロック:LRA 6〜12 LU程度(適度なダイナミクス)
- EDM・ヒップホップ:LRA 3〜7 LU程度(コンプレッション強め)
LRAが極端に低い(2 LU以下)と、音が平板で聴き疲れしやすくなります。ジャンルの目安と照らし合わせながら、リミッター・コンプレッサーのかけすぎに注意しましょう。
失敗4:マスターバスに直接EQをかけすぎる
マスタリング段階でのEQは、±2〜3 dB以内が目安です。それ以上の補正が必要な場合は、個別トラックのミックスに問題があることがほとんどです。特に200〜500 Hzの「こもり」や8〜12 kHzの「刺さり」はミックス段階で対処しておきましょう。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が現場でよく確認するのは、リミッターを外した状態でのLUFSとダイナミクスの状態です。リミッターを通す前のミックスが−20〜−18 LUFS程度に収まっていると、リミッターへの依存度が下がって音の自然さが保たれます。Cubaseのチャンネルストリップにあるコンプをかけすぎているトラックを一つずつチェックしていくと、「原因はドラムのバスコンプだった」というケースが非常に多いです。
ジャンル別マスタリングターゲットの目安
同じ−14 LUFSでも、ジャンルによってサウンドの設計思想が異なります。以下の数値はあくまで参考値ですが、方向性を決める際の指針として活用してください。
| ジャンル | Integrated LUFS目安 | True Peak | LRA目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ポップス・J-POP | −14〜−12 LUFS | −1.0 dBTP | 6〜10 LU | ボーカルの存在感を優先 |
| EDM・ダンスミュージック | −9〜−7 LUFS | −1.0 dBTP | 3〜6 LU | ラウドでも許容されるジャンル |
| アコースティック・フォーク | −16〜−14 LUFS | −1.0 dBTP | 10〜15 LU | ダイナミクスで表情を出す |
| クラシック・映画音楽 | −23〜−18 LUFS | −1.0 dBTP | 15〜25 LU | EBU R128放送基準に準拠することも |
| ヒップホップ・R&B | −12〜−9 LUFS | −1.0 dBTP | 5〜9 LU | 低域の密度感が重要 |
EDMのように−9 LUFSを超えるラウドな楽曲は、Spotifyで再生すると約5 dB程度ボリュームダウンされます。それでも音質が保たれるよう、リミッターによるトランジェントの損失を最小限にする設計が必要です。Fabfilter Pro-L2やiZotope Ozoneのマキシマイザーなど、トゥルーピーク対応のリミッターを使うことが推奨されます。
マスタリングに役立つ主なプラグイン・ツール比較
無料〜低価格帯(〜10,000円)
- Youlean Loudness Meter 2 Free:ラウドネス計測専用。プリセット充実で初心者に最適。
- Cakewalk by BandLab(DAW):無料DAW。付属のProChannel Limiterで基本的なマスタリングが可能。
- TDR Limiter 6 GE(約6,000円):クオリティの高い6段構成のリミッター。ラウドネス計測機能付き。
中価格帯(10,000〜50,000円)
- Fabfilter Pro-L2(約25,000円):業界標準のブリックウォールリミッター。True Peak対応。複数のリミッティングアルゴリズムを選択可能。
- iZotope Ozone 11 Elements(約16,000円):AI支援のマスタリングスイート。初心者でも目標ラウドネスに自動で近づけるAssistant機能が便利。
高価格帯(50,000円〜)
- iZotope Ozone 11 Advanced(約80,000円):スペクトラムバランシング・ステレオイメージャー・Vintageモジュール等、プロ仕様の機能が揃う。
- Sonnox Oxford Limiter v2(約45,000円):放送・映画業界でも使われる高精度リミッター。Enhance機能でハーモニクスを加えながら音圧を稼げる。
初めてラウドネスマスタリングに取り組む方には、まずCubase付属のBrickwall LimiterとSupervisionの組み合わせで基礎を習得することをお勧めします。ツールを増やす前に「なぜその数値を目指すのか」という理解を深めることが、上達の近道です。
ラウドネス調整を学ぶためのロードマップ
ラウドネスマスタリングは、以下のような段階を踏んで習得していくと効率的です。
初級(0〜1ヶ月)
- dBFS・LUFS・True Peakの違いを理解する
- Cubase Supervisionで自分の楽曲のIntegrated LUFSを計測する習慣をつける
- マスターバスにBrickwall Limiterを挿入し、Ceilingを−1.0 dBTPに設定する
- ターゲット:−14 LUFS前後に調整できるようになる
中級(1〜3ヶ月)
- LRAとダイナミクスの関係を理解し、コンプレッサーの使い方を見直す
- マスターバスEQ(±2 dB以内)でスペクトラムバランスを整える
- Youlean Loudness Meter等のサードパーティメーターを導入する
- 配信用ファイルの書き出し設定(フォーマット・ビット深度・サンプルレート)を固める
上級(3ヶ月〜)
- ミックスのバスコンプ設計からマスタリングまでをトータルでデザインする
- ジャンルごとのラウドネスターゲットを意図的に使い分ける
- プロのマスタリングエンジニアの作品をリファレンスとして分析する
- ステレオイメージ・低域のモノ互換性も含めた総合的なクオリティチェック
ラウドネスの知識はDTMの中でも「ミックス」と「配信」の両方に関わる横断的なスキルです。コアミュージックスクールのDTM・作曲講座では、こうしたマスタリングの実践的な知識もCubaseの操作とあわせて学ぶことができます。
まとめ:ラウドネス調整の要点
- ストリーミング配信の基準は−14 LUFS / True Peak −1.0 dBTPが主流
- Apple Musicは−16 LUFSとやや低めの基準を採用している
- リミッターで無理に音圧を稼ぐとトランジェントが潰れ音質が劣化する
- Cubase付属のSupervisionとBrickwall Limiterで基礎的な調整は可能
- LRAを意識してダイナミクスを保つことが聴き疲れしない楽曲につながる
- 書き出しはWAV 24bit / 44,100 Hzを基本に、ディザリングは16bit変換時のみ適用
ラウドネスの知識は、一度身につければ全ての楽曲制作に活きる基礎スキルです。「数値を見る習慣」から始めるだけで、配信後の聴こえ方は確実に変わります。
川口駅徒歩2分のDTM講座で、マスタリングまで体系的に学べます
コアミュージックスクールは、JR川口駅から徒歩2分の場所にある音楽教室です。ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論を指導する古賀稔宏講師によるマンツーマンレッスンで、今回解説したラウドネス調整・マスタリングの実践的なスキルをゼロから習得できます。
DTM・作曲講座では、Cubaseの基本操作からミックス・マスタリングまでを段階的にカリキュラム化しており、「自分の曲をストリーミングで配信できるレベルにしたい」という目標を持つ方に特に好評です。また、歌と組み合わせて楽曲制作を学びたい方にはボーカル講座との同時受講もご相談いただけます。
まずは気軽に試せる無料体験レッスンからどうぞ。現役講師があなたの現在のレベルと目標を丁寧にヒアリングし、最適な学習プランをご提案します。




