「ミックスは完成したのに、プロの曲と比べると音が小さくて迫力がない」「書き出した音源をSpotifyで再生したら、なんとなくぼんやりしている気がする」——DTMを始めたばかりの方から、こういったお悩みをよく伺います。その原因のほとんどは、マスタリングの工程が抜けているか、手順を誤っているかのどちらかです。
マスタリングとは、ミックスが完了した音源に最終的な仕上げを施し、各種配信プラットフォームやCDで最適に鳴るよう整える作業です。EQ・コンプレッサー・リミッターを使って音圧や音質を整え、聴き手に届ける「最後の一工程」といえます。本記事では、DTM初心者の方が自分でマスタリングを行うための具体的な手順を、数値や使用プラグインの名称を交えながら解説します。
なお、マスタリングを正しく学ぶには、ミックスや音楽理論の土台も重要です。コアミュージックスクールのDTM・作曲講座では、現役プロ講師によるマンツーマン指導でそうした総合的なスキルを効率よく身につけることができます。ぜひ参考にしてみてください。
マスタリングとミックスの違いを正しく理解する
マスタリングを学ぶ前に、まずミックスとの違いを整理しておきましょう。初心者の方が混同しがちなポイントです。
ミックスとマスタリング、それぞれの役割
| 工程 | 対象 | 主な作業内容 | 使用するトラック |
|---|---|---|---|
| ミックス | 個々のトラック | 音量バランス・定位・EQ・コンプ・リバーブ | マルチトラック |
| マスタリング | ステレオ2mixファイル全体 | 音圧調整・全体EQ・リミッター・フォーマット変換 | ステレオマスタートラック |
ミックスは「各楽器をどう聴かせるか」の作業、マスタリングは「完成した楽曲を世の中に届ける最終仕上げ」の作業です。この2つを混同したまま進めると、マスタリングで取り返しのつかない歪みや音質劣化を招くことがあります。
マスタリング前に確認すべきミックスの状態
マスタリングに入る前に、以下の項目を必ずチェックしてください。
- マスタートラックのピークが -6dBFS〜-3dBFS 以内に収まっているか
- クリッピング(赤いランプの点灯)が発生していないか
- 各トラックに残留ノイズや不要な低音が混入していないか
- 書き出し形式が WAV 24bit / 44.1kHz 以上 になっているか
特にマスタートラックのヘッドルームを -6dBFS 程度確保しておくことは非常に重要です。ヘッドルームが足りない状態でリミッターをかけると、音が潰れて不自然に歪んでしまいます。
マスタリングに必要なツールと環境を整える
本格的なマスタリングスタジオでは数百万円規模の機材を使いますが、DTM初心者がまず取り組む段階では、DAW付属のプラグインでも十分に効果を出すことができます。
DAW付属プラグインで揃えるマスタリングチェーン
| プラグインの種類 | 主な用途 | Cubase付属例 | 無料代替例 |
|---|---|---|---|
| EQ(イコライザー) | 周波数バランス調整 | Frequency | TDR Nova |
| コンプレッサー | ダイナミクス整理 | Vintage Compressor | DC1A |
| リミッター | 音圧確保・クリッピング防止 | Maximizer | Limiter No6 |
| ステレオイメージャー | 定位・広がりの最終調整 | StereoEnhancer | Ozone Imager 2 |
| メータリング | ラウドネス・ピーク計測 | Loudness Meter | Youlean Loudness Meter |
有料プラグインでは iZotope Ozone 11 がマスタリング統合プラグインとして人気で、AIアシスト機能も備えており初心者にも扱いやすい設計です。価格は Elements版で約7,000〜10,000円(セール時)から入手でき、導入コストとしては比較的手頃な選択肢です。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が実際にレッスンでCubaseを使って教えるとき、まず「マスタートラックにリミッターだけ刺して終わり」という方がとても多いことに気づきます。ただ、その前のEQやコンプの工程を丁寧に行わないと、リミッターが音を強引に潰してしまうんです。私自身、プラグインのかける順番(プラグインチェーンの順序)をきちんと意識してから、書き出した音源の質が大きく変わりました。初心者の方にもまずこの「順序の大切さ」をお伝えするようにしています。
マスタリングの基本手順:5ステップで進める
ここからは実際の手順を順番に解説します。DAWはCubaseを例にしますが、他のDAWでも考え方は共通です。
ステップ1:ラウドネスとピークの現状確認(5〜10分)
まず、何も挿していない状態でミックスを再生し、現状の音量・ラウドネスを計測します。Youlean Loudness Meter などの無料ツールを使い、以下の数値を確認してください。
- LUFS(Loudness Units relative to Full Scale):Spotifyの配信基準は -14 LUFS、Apple Musicは -16 LUFS
- True Peak:最終的に -1.0 dBTP 以内に収める(配信規格上の推奨値)
- ダイナミックレンジ:LRA(Loudness Range)が8〜14 LU 程度あるか
現状を把握せずにプラグインをかけ始めると、どのくらい音が変わったのかが判断できなくなります。「Before/After」を数値で比較できる状態を作ることが、マスタリングの第一歩です。
ステップ2:EQで周波数バランスを整える(15〜30分)
EQはマスタリングチェーンの最初に置き、全体の周波数バランスを整えます。ただし、マスタリングのEQはミックスのEQとは異なり、0.5〜2dB 程度の繊細な調整が基本です。大幅にカットやブーストをしなければならない場合は、ミックスに戻って修正するのが正解です。
よくある調整の具体例:
- 20〜40Hz 以下:ハイパスフィルターで不要なサブ低音をカット(スピーカーでは聴こえないが音圧を無駄に消費する帯域)
- 200〜400Hz 付近:こもりを感じる場合は 0.5〜1dB カット
- 3kHz 付近:存在感・抜けを出したい場合は 0.5〜1dB ブースト
- 10kHz 以上:空気感・明るさの調整。シェルビングEQで 0.5〜1dB 程度
ステップ3:コンプレッサーでダイナミクスを整える(10〜20分)
マスタリング用コンプレッサーは、ミックス全体の「動き」を自然にまとめるために使います。設定の目安は以下のとおりです。
- レシオ:1.5:1〜2:1(非常に穏やかな設定)
- スレッショルド:ゲインリダクションが 1〜3dB 程度になる位置
- アタック:30〜60ms(トランジェントを殺さないよう遅めに)
- リリース:曲のテンポに合わせて 100〜300ms が目安(BPM 120なら約250ms)
コンプを深くかけすぎると「のっぺりした音」になります。初心者の方はまず「かけているかどうかギリギリわかる」くらいの深さから始めることをおすすめします。
ステップ4:リミッターで音圧を確保する(10〜15分)
リミッターはマスタリングチェーンの最後に置きます。ここで最終的な音圧を決定します。
- アウトプットシーリング(True Peak):-1.0〜-0.3 dBTP に設定
- 目標LUFS:配信先に合わせて -14〜-16 LUFS を目安にゲインをかける
- ゲインリダクション量:3〜6dB 以内に収めるのが自然な仕上がりの目安。それ以上かかる場合はミックスを見直す
よく使われるリミッタープラグインとしては、FabFilter Pro-L 2(約23,000円)や Waves L2(セール時3,000円前後)があります。Cubase付属の Maximizer でも基本的な音圧調整は十分に行えます。
ステップ5:参照曲と比較して最終確認(10〜20分)
マスタリングが完了したら、必ず「リファレンストラック(参照曲)」と聴き比べます。リファレンスとは、自分が目指す音のイメージに近い市販の楽曲のことです。
比較の際のポイント:
- DAW上でリファレンス曲を読み込み、同じラウドネス(LUFS値)に揃えてから比較する
- 音量が大きいほうが「良い音」に聞こえるバイアスを排除するため、必ずLUFS統一が前提
- 低音の量感・中域の抜け・高域の明るさを3つの観点でチェックする
- 5分以上聴き続けず、耳を休めながら判断する(耳の疲労は判断ミスの原因)
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が現場でマスタリングの仕上がりを確認するときに一番気をつけているのは、「ラウドネスを揃えた上でリファレンスと比較する」という点です。LUFSを揃えずに聴き比べると、自分の曲のほうが音が小さく聴こえて「まだ音圧が足りない」と錯覚してしまいます。レッスンでもこの錯覚にハマっている生徒さんをよく見かけます。リミッターを深くかけすぎると音が潰れるので、まず-14LUFSに揃えてからジャッジする習慣をぜひ身につけてください。
ジャンル別・配信先別のマスタリング目標値まとめ
マスタリングの目標値はジャンルや配信先によって異なります。以下の表を参考にしてください。
主要配信プラットフォームのラウドネス規格
| プラットフォーム | 目標LUFS | True Peak上限 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Spotify | -14 LUFS | -1.0 dBTP | 基準値超えると自動的に下げて再生 |
| Apple Music | -16 LUFS | -1.0 dBTP | Sound Checkで自動調整あり |
| YouTube | -14 LUFS | -1.0 dBTP | 超過分はノーマライズされる |
| CD(物理媒体) | -9〜-12 LUFS | 0 dBFS | 配信より高音圧が一般的 |
ジャンル別のマスタリングポイント
- EDM・クラブミュージック:低音(60〜100Hz)の量感が重要。キックのパンチ感を損なわないようリミッターはやや浅めに
- ポップス・J-POP:ボーカルの抜けを優先。3〜5kHz 帯域を慎重にコントロール
- アコースティック・弾き語り:ダイナミクスをできるだけ残す。LRAを広めに保つ(12〜16 LU 程度)
- ロック・バンドサウンド:ギターの中域とドラムのアタック感のバランスが鍵。コンプは控えめに
初心者がよく陥るマスタリングの失敗例と対策
マスタリングの学習過程でよく起こるミスと、その対策をまとめました。
失敗例1:リミッターだけで音圧を上げようとする
症状:書き出した音が歪んでいる、または音が潰れてのっぺりしている
原因:EQ・コンプの工程を省いて、リミッターのゲインを大きく上げすぎた
対策:ゲインリダクションを3〜6dB 以内に抑え、EQ→コンプ→リミッターの順序を守る
失敗例2:大音量で長時間作業して判断が鈍る
症状:書き出した音を翌日聴くと、高音がキンキンしている
原因:耳が疲弊した状態で高域をブーストしすぎた
対策:モニタリングは 75〜80dB SPL 程度の音量で行い、30分ごとに10分休憩する。スピーカー(YAMAHA HS5 等)とヘッドフォン(Sony MDR-7506 等)の両方で確認する
失敗例3:マスタリング中にプロジェクトを修正してしまう
症状:マスタリングを繰り返すうちに元の音源がどれかわからなくなる
原因:ミックスとマスタリングを同じプロジェクトで行っている
対策:ミックスを書き出した WAVファイルを別プロジェクトに読み込んでマスタリングする。バージョン管理をファイル名で行う(例:「track_mix_v3.wav」→「track_master_v1.wav」)
失敗例4:モノラル互換性を確認しない
症状:スマホのスピーカーや小さいBluetoothスピーカーで聴くと低音が消える
原因:ステレオイメージャーを使いすぎて位相が乱れている
対策:マスタリング後にDAWのモノラル確認機能でチェック。低域(200Hz 以下)はモノラルで鳴らすのが基本
マスタリングの学習ロードマップ:どのくらいの期間で身につくか
マスタリングは「正解が見えにくい」作業のため、独学だと方向性を見失いがちです。以下に学習ステージの目安を示します。
| ステージ | 目安期間 | できるようになること | 必要な前提スキル |
|---|---|---|---|
| 入門 | 1〜2ヶ月 | EQ・リミッターを使って-14LUFSに仕上げる | ミックスの基礎・DAW操作 |
| 初級 | 3〜6ヶ月 | リファレンストラックと比較できる | 周波数・dBの基礎知識 |
| 中級 | 6ヶ月〜1年 | ジャンルに応じた目標値を設定できる | コンプレッサーの理解・耳の訓練 |
| 上級 | 1年以上 | クライアント作品を仕上げられる | モニター環境・音楽理論の深い理解 |
独学で入門〜初級を進む場合、特につまずきやすいのが「自分の耳が正しいかどうか判断できない」という問題です。プロの講師に一度でも確認してもらうことで、方向性を大幅に修正できるケースが多くあります。DTM・作曲講座のマンツーマンレッスンでは、実際に制作した音源をその場で聴きながらフィードバックを受けることができます。
また、ボーカルを含む楽曲を制作している方は、ボーカルのレコーディングやミックスの精度がマスタリングの仕上がりに直結します。ボーカル講座と合わせて学ぶことで、楽曲全体のクオリティを底上げすることができます。
まとめ:マスタリングは「仕上げの技術」、土台はミックスにある
マスタリングの基本手順をおさらいします。
- 現状確認:LUFS・True Peak・ヘッドルームをメータリングで計測
- EQ:0.5〜2dB の繊細な調整で周波数バランスを整える
- コンプレッサー:1〜3dB のゲインリダクションで全体感を統一
- リミッター:True Peak -1.0 dBTP、目標 -14〜-16 LUFS に仕上げる
- リファレンス比較:LUFSを揃えたうえで参照曲と聴き比べて最終確認
マスタリングはミックスの問題点を修正する魔法の工程ではありません。あくまでも良質なミックスがあってはじめて機能する「仕上げの工程」です。マスタリングに悩んでいる方は、ぜひ一度ミックスそのものを見直す視点も持ってみてください。
コアミュージックスクールでは、川口駅から徒歩わずか2分の場所で、現役プロ講師によるマンツーマンのDTMレッスンを提供しています。マスタリングの手順を体系的に学びたい方、自分の音源をプロの耳でチェックしてほしい方は、ぜひ一度無料体験レッスンにお越しください。
無料体験レッスンのご予約はこちらから受け付けています。初心者の方でも安心して参加できる内容ですので、まずはお気軽にどうぞ。コアミュージックスクールの詳細もあわせてご確認ください。



