「ポップスは作れるけど、ロックやEDMになると途端に手が止まる」「自分の作る曲が毎回似たような雰囲気になってしまう」——DTMで作曲を続けていると、こうした壁にぶつかる方は少なくありません。実はこの問題、センスや才能の差ではなく、ジャンルごとに異なるサウンドの文法を知っているかどうかの差であることがほとんどです。
この記事では、ポップス・ロック・EDM・ジャズ・ボサノバといった代表的なジャンルそれぞれについて、BPMの目安・使うべきコード進行・音色の選び方・ミックスのポイントなど、具体的な数値と制作手順をもとに解説します。DTMを始めたばかりの方から、表現の幅を広げたい中級者まで、すぐ実践に使える内容をお届けします。
ジャンルを「学ぶ」前に知っておきたい基礎の考え方
ジャンルとは単なる音楽のカテゴリではなく、リスナーが無意識に期待する「音のルール集」です。ロックを聴く人はドライブ感のあるギターリフを、EDMを聴く人は4つ打ちのキックとビルドアップを期待しています。この期待に応えながら自分らしさを加えるのが、ジャンル作曲の本質です。
まず取り組むべきことは、作りたいジャンルの楽曲を「聴く」だけでなく「分析する」ことです。具体的には以下のポイントを確認しましょう。
- BPM(テンポ)は何か
- キックやスネアはどの拍に置かれているか
- どの楽器が主役でどの楽器が脇役か
- コードは何拍ごとに変わるか
- サビやドロップに向かうにつれてどの要素が増えるか
こうした分析を繰り返すことで、ジャンルの「文法」が体に入ってきます。その上で自分のアイデアを乗せると、方向性がブレない楽曲が作れるようになります。
ポップス:誰もが聴きやすい「引き算」の設計術
BPM・コード・構成の基本
J-POPや洋楽ポップスの多くは、BPM 80〜128 の範囲に収まります。バラードは80〜95、アップテンポは110〜128が目安です。コード進行は「I–V–VIm–IV」(いわゆる王道進行)や「IIm–V–I」などシンプルなものが多く、サビで転調する楽曲も頻出します。
ポップスで最も重要なのはメロディの歌いやすさです。音域は1オクターブ半(例:C4〜G5)に収め、跳躍音程を多用しすぎないよう意識しましょう。また、Aメロ→Bメロ→サビという3部構成が基本で、全体の尺は3分30秒〜4分が標準です。
音色とミックスのポイント
ポップスのミックスは「主役のメロディを常に前に出す」ことが鉄則です。ボーカルやリードシンセが埋もれないよう、伴奏トラックの100〜300Hzをわずかにカット(-2〜-4dB程度)するだけでも抜けが改善します。ドラムはキックを60〜80Hz、スネアを200〜250Hzで補強すると力強さが出ます。
| 要素 | 目安値 | ポイント |
|---|---|---|
| BPM | 80〜128 | 楽曲の雰囲気で使い分け |
| メロディ音域 | C4〜G5程度 | 歌いやすさを優先 |
| ボーカルEQ | 80Hz以下をカット | 低音のモコつきを除去 |
| 楽曲の尺 | 3分30秒〜4分 | サブスク時代の標準 |
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が実際にレッスンでポップス制作を教えるとき、まず生徒さんに「音を増やす前に引き算を考えよう」とお伝えしています。Cubaseのミキサーで各トラックをソロ再生して、その楽器がなくなったときに曲が崩れるかどうかを確認する作業です。この「ソロ確認」を繰り返すだけで、必要な音と不要な音の判断力が格段に上がります。ポップスは情報量を絞ることでメロディが際立ちます。
ロック:グルーヴとエネルギーを生む「歪み」の使い方
ドラムとギターで作るロックのグルーヴ
ロックのBPMは幅広く、パンクロックなら 160〜200、オルタナティブロックなら 100〜140、ヘヴィメタルは楽曲によって60〜200と大きく変わります。ドラムはバックビート(2拍目・4拍目のスネア)が基本で、このスネアの音量と音質がロックらしさを左右します。
ギターサウンドはDTMでの再現が難しい要素の一つですが、アンプシミュレーター(Guitar Rig、AmpliTubeなど)を使えばリアルなドライブサウンドが得られます。ディストーションの歪みはゲインを上げすぎず、高域(4〜8kHz)の倍音感を残すことがポイントで、ミックスでは200Hz前後をカットすることでギターの輪郭が出ます。
コード進行とアレンジの鉄板手法
ロックの定番コード進行には「I–IV–V」「I–bVII–IV」などパワーコードが映えるものが多く、5度音程を重ねたパワーコードはその響きの太さからロックの象徴とも言えます。アレンジ面では、ギター2本をステレオでパンニング(L/Rそれぞれに50〜80振り)することで広がりと重厚感が生まれます。
EDM・エレクトロニック:構造とビルドアップの設計法
EDMの「構造」を理解する
EDMの最大の特徴は楽曲構造の明確さです。典型的な構成は「Intro → Build-up → Drop → Breakdown → Build-up → Drop → Outro」で、BuildからDropへの落差がリスナーのエモーションを揺さぶります。BPMはハウスなら 120〜130、ドラムンベースなら 160〜180、トラップ系は 70〜140(ハーフタイム含む)が目安です。
Dropで使うキックは 60〜80Hzに芯を持たせ、サイドチェインコンプレッサーでシンセパッドを圧縮してポンピング感を出すのがEDMの定石です。Cubaseでは「Compressor」のサイドチェイン入力にキックのバスを設定することで、この効果が簡単に再現できます。
シンセ音色の選び方と作り方
EDMのリードシンセにはのこぎり波やスーパーソウが多用されます。スーパーソウは複数のオシレーターをわずかにデチューン(±5〜15セント)することで生まれる分厚い音色で、Serum・Massive・SylentHといったソフトシンセで作るのが一般的です。フィルターのカットオフをオートメーションで動かすことで、Build-upの盛り上がり感を演出できます。
| EDMサブジャンル | BPM目安 | キックの特徴 | 代表的な音色 |
|---|---|---|---|
| フューチャーハウス | 120〜128 | 4つ打ち、タイト | G-Houseベース |
| ドラムンベース | 160〜180 | シンコペーション多用 | Reese Bass |
| トラップ | 70〜140 | ハイハット細かく刻む | 808ベース |
| プログレッシブハウス | 126〜132 | 4つ打ち、厚みあり | スーパーソウリード |
EDM制作において、ミックスのラウドネス管理も重要なポイントです。各ストリーミングサービスのラウドネス基準(Spotifyは-14 LUFS、YouTubeは-14 LUFS程度)を意識してマスタリングすることで、プラットフォームで音量が不自然に下がるのを防げます。
ジャズ:コードの「色」と即興感を生む作曲術
テンションコードと進行の使い方
ジャズの最大の特徴はコードの複雑さと豊かさです。メジャー7th・マイナー7th・ドミナント7th・9th・11th・13thといったテンションコードを組み合わせることで、ジャズ特有の「大人の響き」が生まれます。テンポはスウィングジャズなら 120〜240(BPM表記上は速くても8分音符でスウィングするため体感は異なる)、バラードなら 50〜70 が目安です。
進行の基本は「IIm7–V7–Imaj7」のツーファイブワン(II-V-I)です。この進行を繰り返しながらキーを半音・全音で転調させる「コードチェンジ」がジャズの醍醐味の一つで、DTMでも打ち込みながらこの感覚を身につけることができます。
DTMでジャズらしさを出す具体的な方法
ジャズをDTMで再現する際に最初の壁となるのがスウィングのリズム感です。8分音符をジャストに入力してもジャズらしく聴こえないのはこのためで、DAWのクォンタイズ設定で「スウィング率50〜67%」に調整するか、ベロシティを裏拍で若干下げる(100→75程度)ことで自然なスウィング感が出ます。
ピアノの音色選びも重要で、Steinway系のサンプル音源(Pianoteqや Keyscape など)を使うと表現力が格段に上がります。ベースはウッドベースの音源(Spitfire AudioのLABS Bassなど)を選び、ピッチャーで微妙なピッチの揺れを加えるとリアルさが増します。
古賀 稔宏(ギター・ウクレレ・DTM(Cubase)・作曲技法・音楽理論 講師)より:
私が現場でジャズの作曲を教えるとき、生徒さんによく言うのは「まずII-V-Iを12のキー全部でスラスラ書けるようにしよう」ということです。Cubaseのコードトラックを使うと視覚的にコードの動きが確認できるので、理論と音が結びつきやすくなります。ジャズはコードの「引力」を感じることが重要で、V7からImaj7への解決感を体感できると、テンションの使い方が自然と身についてきます。
ボサノバ・ラテン:リズムとハーモニーの繊細なバランス
ボサノバのリズムパターンとコード感
ボサノバはジャズとサンバが融合したブラジル発祥のジャンルで、BPMは 100〜130 が標準です。特徴的なのはギターのリズムパターンで、親指でベース音を弾きながら指でコードを刻む「バチーダ」と呼ばれる奏法が基本です。DTMではギター音源に加え、リズム的なベロシティの打ち込みでこの雰囲気を再現できます。
コードはジャズと同様にテンションを多用しますが、よりまろやかな解決を好む傾向があります。「Imaj7–IIm7–V7sus4」のような動きや、クロマチックな半音進行を混ぜることがボサノバらしさの鍵です。
ラテンジャンル全般のリズム比較
| ジャンル | BPM目安 | 特徴的なリズム | 主要楽器 |
|---|---|---|---|
| ボサノバ | 100〜130 | バチーダ(ギター) | ギター、フルート |
| サルサ | 160〜220 | クラーベパターン | コンガ、トランペット |
| レゲトン | 95〜100 | デンボウリズム | 808、シンセ |
| サンバ | 100〜120 | 16分音符の細かい刻み | パンデイロ、スルド |
ジャンル横断で使える「作曲時間の使い方」実践ガイド
1曲完成までの標準的な時間配分
作曲に行き詰まる理由のひとつに、どの工程にどのくらい時間をかけるべきかわからないという問題があります。以下は、DTMで1曲(3〜4分のポップス・EDM相当)を完成させるための目安時間です。
- アイデア出し・コード進行の確定:30分〜2時間
- メロディ制作・アレンジ(打ち込み):2〜6時間
- 音色選び・音量バランス調整:1〜3時間
- ミックス(EQ・コンプ・空間系):2〜4時間
- マスタリング:30分〜1時間
合計で6〜16時間程度が一般的です。初心者のうちはアレンジや音色選びに時間がかかりますが、ジャンルの文法を学ぶにつれ、アイデアの決断が速くなり全体の制作時間も短縮されます。
ジャンルをまたいで使える共通テクニック
異なるジャンルに見えても、実は共通する制作テクニックがあります。
- レイヤリング:似た音域の異なる音色を重ねて厚みを出す(ポップス・EDM共通)
- モジュレーション:ビブラートやコーラスで音に動きを加える(ロック・ジャズ共通)
- ダイナミクスの設計:静と動のコントラストで感情を動かす(全ジャンル共通)
- ルームリバーブ:短めのリバーブ(プリディレイ20〜30ms、ディケイ1〜1.5秒)で空間の広さを演出
- オートメーション:音量・フィルター・パンを時間軸で変化させ、静的な印象を避ける
これらは特定のDAWに依存しない考え方ですが、Cubaseではオートメーショントラックが視覚的に確認しやすく、特に初心者が取り組みやすい環境が整っています。
ジャンルを学ぶ際の落とし穴と対策
ジャンルを学ぶ過程で多くの方が陥る落とし穴は、「完コピ」に終わってしまい、自分のオリジナルが作れないという状態です。分析と模倣は必要なプロセスですが、最終的には「このジャンルのルールのうち、どれを守り、どれを破るか」という判断が作家性につながります。
対策としては、参考にした楽曲と自分の作品をBPM・楽器編成・コード進行の3点だけ変える練習が有効です。3点変えると、参考曲からかなり離れた独自性が生まれやすくなります。
コアミュージックスクールのDTM・作曲講座でジャンル作曲を加速させる
ジャンルの文法を頭で理解しても、実際のDAW操作に落とし込むまでには「どのプラグインをどう使うか」「自分の曲のどこがジャンルらしくないのか」といった個別の問題が残ります。独学では気づきにくいこうした課題を、現役講師によるマンツーマンレッスンで解決できます。
コアミュージックスクールのDTM+作曲講座では、Cubaseを中心に、コード進行の作り方・アレンジ・ミックスまでを一貫して学べます。ポップス・ロック・EDM・ジャズなど、生徒さんが作りたいジャンルに合わせた指導内容にカスタマイズできるのが特徴です。
また、作曲したメロディにボーカルを乗せたい方にはボーカル講座も併設されており、作曲とボーカルを同時に学ぶことも可能です。
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