「デスボイスやグロウルに挑戦したいけど、喉を壊しそうで怖い」——そう思って踏み出せずにいる方は多いと思います。確かに、間違った方法で練習すると声帯に負担をかけてしまうリスクがあります。しかし、正しい発声の仕組みを理解し、正しい順序で練習すれば、喉を守りながらデスボイス・グロウルを習得することは十分に可能です。この記事では、ボーカル講師の現場知見をもとに、初心者が安全に取り組める具体的なステップを解説します。
結論から言うと、デスボイス・グロウルの核心は「声帯そのものを傷める発声をしないこと」です。一般的に誤解されがちですが、これらの奏法は声帯をこすり合わせて音を出すのではなく、仮声帯(第2の声帯)や咽頭の周辺筋肉を活用した発声技術です。まずこの前提を押さえておくだけで、練習の方向性がまったく変わります。
デスボイス・グロウルとは?種類と仕組みを整理する
「デスボイス」「グロウル」という言葉は日常会話ではあまり聞き慣れないかもしれませんが、ヘヴィメタルやデスメタル、メタルコアなどのジャンルでは定番の発声技術です。まず種類と発声原理を整理しましょう。
主な種類の違い
| 名称 | 特徴 | 代表的なアーティスト例 | 習得難易度 |
|---|---|---|---|
| グロウル(Growl) | 低く唸るような声。咽頭を使った深い歪み | Cannibal Corpse、Obituary | ★★★☆☆ |
| スクリーム(Scream) | 高〜中音域の叫び声的な歪み | Bring Me The Horizon(初期) | ★★☆☆☆ |
| ブラックメタルスクリーム | 高音域・ノイジーな歪み。空気感が強い | Mayhem、Darkthrone | ★★★★☆ |
| ピッグスクイール | 独特のハイピッチ。喉・口腔形状をフル活用 | Emmure、Acacia Strain | ★★★★★ |
| フライスクリーム | 声帯フライを応用した低音歪み。柔らかい質感 | ジャズ〜ポップスでも応用可 | ★★☆☆☆ |
発声の仕組み:仮声帯とは何か
通常の発声では、左右の真声帯(声帯ひだ)が振動して音を作ります。一方、デスボイス・グロウル系の発声では、真声帯の上に位置する仮声帯(室ひだ・vestibular fold)が主体的または補助的に振動することで歪んだ音色が生まれます。健康な状態では仮声帯は発声に関与しませんが、特定の喉の形や圧力をかけることで意図的に振動させることができます。
また、咽頭腔・口腔のフォルマント(共鳴周波数)を変化させることで音色のキャラクターが大きく変わります。たとえばグロウルでは、咽頭を広く保ちながら150〜400Hzあたりの低域を強調するフォルマントの操作が重要です。これは声道の形を変えることで調整できるため、喉の筋肉そのものを酷使する必要がないのです。
喉を壊さないために最初に知っておくべきこと
デスボイスで喉を痛める原因の大半は、「力任せに叫ぼうとする」ことです。声帯を強く圧迫したまま大音量を出し続けると、声帯粘膜に炎症やポリープが生じる危険があります。以下のポイントを最初に徹底してください。
喉を壊す原因TOP3
- ①喉に力を入れすぎる:首や喉周辺の筋肉が過緊張すると、声帯への圧力が増して粘膜を傷める。
- ②ウォームアップなしで歪みに挑む:冷えた声帯は柔軟性がなく、急激な負荷に弱い。
- ③過剰な練習時間と音量:1回の練習で30分以上連続してデスボイスを出し続けることは避ける。
練習前の必須チェックリスト
- 前日に深酒・カラオケの長時間使用がなかったか確認する
- 練習前に常温の水またはぬるま湯を200ml以上飲む(喉の保湿)
- ウォームアップに最低10〜15分かける(リップトリルや5トーンスケールなど)
- 声に違和感・痛みがある日は練習を中止する
- 通常の会話声でも枯れている場合はその日は歌わない
奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:
私が実際にレッスンで何度も見てきたのが、「最初から全力で叫ぼうとして喉を詰まらせてしまう」パターンです。デスボイスを練習したい生徒さんのほとんどが、最初の段階でウォームアップをすっ飛ばしてしまいます。まず喉をほぐす10〜15分を習慣にするだけで、翌日の喉の状態がまったく変わると何人もの生徒さんが実感されていました。焦らず土台を作るのが一番の近道だと思います。
奥津ユキ講師の公式サイト:奥津ユキ|社会人のための話す声のトレーニング(okutsuyuki.com)
初心者向け:デスボイス習得の5ステップ
ここからが実践編です。段階を踏まずに難しい技術に挑戦しても定着しません。以下の5ステップを順番に行ってください。目安の習得期間も合わせて記載します。
ステップ1:腹式呼吸の安定(1〜2週間)
デスボイスも通常のボーカルも、腹式呼吸が土台です。横隔膜を使って安定した息の流れを作れないと、喉だけで声を支えようとしてしまいます。仰向けに寝た状態でお腹が上下する感覚を掴み、立った状態でも再現できるまで練習してください。1日10〜15分、1〜2週間で感覚がつかめます。
ステップ2:声帯フライ(ボーカルフライ)の習得(2〜4週間)
ボーカルフライ(Vocal Fry)は、声帯をゆるく閉じた状態で息を少量流し、パチパチ・ザラザラとした低音を出す技術です。英語で「creaky voice」とも呼ばれ、女性アーティストではBillie Eilishがよく使う発声として知られています。これが「歪み」の感覚をつかむ最初の入口です。
練習方法:
- 息をゆっくり吐きながら、声帯を閉じていく
- 「アーーー」と低い声で発声し、そのまま息を絞っていく
- 音がパチパチ・ゴロゴロし始めたらボーカルフライが出ている状態
- これを1回30秒×3セット、1日2回程度続ける
ステップ3:フライからグロウルへの移行(1〜2ヶ月)
ボーカルフライが安定したら、そこから音量と息の量を少しずつ増やしていきます。同時に、咽頭を開いた状態を保つ意識を持ちます。喉仏を少し下げ(降喉)、舌根を後ろに引きすぎず、口の奥を広く保つイメージです。この状態で息の圧力を上げると、自然とグロウルに近い音が出始めます。
目安:この段階での練習時間は1日あたり実質10〜20分に留める。長時間やると喉への負担が大きくなります。
ステップ4:口腔フォルマントの操作(2〜3ヶ月)
グロウルの音色をコントロールするには、口の形・舌の位置・唇の形を変えることで共鳴を操作する技術が必要です。「A・E・I・O・U」の母音形を保ちながらグロウルすると、それぞれ異なる音色になります。この段階で音楽理論的な観点から言うと、フォルマント周波数が250〜3000Hz帯で変化することで聴感上の音色が変わります。
ステップ5:楽曲への応用(3ヶ月目以降)
基礎が固まったら実際の楽曲に当てはめていきます。最初は比較的テンポが遅めの曲(BPM 80〜100程度)から始め、フレーズ単位で練習するのが効果的です。Lamb of GodやAll That Remainsのリフに合わせてグロウルを当てる練習は、リズム感も養えるためおすすめです。
自宅録音環境の整え方|練習の質を上げるために
デスボイスの上達には、自分の声を録音して客観的に聴くことが非常に重要です。「喉の感覚」だけに頼って練習していると、実際に出ている音と自分の認識がズレていることがよくあります。
初心者向け録音機材の目安
| 機材カテゴリ | モデル例 | 価格帯(目安) | 備考 |
|---|---|---|---|
| コンデンサーマイク | Audio-Technica AT2020 | 約1万円 | 自宅練習録音の定番 |
| USBオーディオIF | Focusrite Scarlett Solo(第4世代) | 約2万円 | 低レイテンシ・高品質 |
| ヘッドフォン | SONY MDR-7506 | 約1.5万円 | モニタリング用途に定評あり |
| DAWソフト | GarageBand(Mac)/Logic Pro | 無料〜約3.2万円 | Logicはプロ仕様で高機能 |
DAWソフトを使った録音・編集に興味がある方は、コアミュージックスクールのDTM・作曲講座もあわせて参考にしてみてください。録音・ミックスの基礎を体系的に学べます。
録音したデータの活用方法
- DAW上でスペクトラムアナライザーを使い、低域(150〜400Hz)が出ているか確認する
- 喉の締め付け感があるときと楽なときの音の違いを聴き比べる
- 週1回以上録音してアーカイブを残し、成長を可視化する
奥津 ユキ(ボーカル・ピアノ・サックス・フルート・DTM(Logic)講師)より:
私が現場でよく生徒さんにお伝えするのが、「自分の声を一度録音して聴いてみてください」ということです。喉で感じている感覚と、実際にマイクを通して出ている音が全然違うと気づく方がとても多いんです。特にグロウルの練習では、力みすぎて音が詰まっていても自分では気づけないことがあります。録音を聴くことで客観的な視点が生まれ、改善がぐっと早くなりますよ。
よくある失敗パターンと対処法
デスボイスの練習でつまずきやすいポイントと、その対処法を整理します。
失敗①:練習するたびに声が枯れる
原因:喉に過度な圧力がかかっている。腹式呼吸ができておらず、喉だけで支えている可能性が高い。
対処法:ステップ1(腹式呼吸)に戻る。また、練習時間を1日10分以内に絞り、ウォームアップを必ず行う。練習後は喉をしっかり保湿し、声を極力使わないクールダウン時間を設ける。
失敗②:グロウルが出るときと出ないときがある
原因:仮声帯の振動を安定して再現できていない。体調・呼吸状態によって喉の状態が変わりやすいため、再現性が低い段階。
対処法:毎回同じルーティン(ウォームアップ→ボーカルフライ→グロウル)で練習し、喉の感覚を身体に記憶させる。録音を活用して「出せたときの感覚」を言語化しておく。
失敗③:音量が小さく歌に乗せられない
原因:息の支えが弱く、音量を上げようとするとまた喉に力が入る悪循環が起きている。
対処法:横隔膜を使った息の圧力(サポート)を強化する。腹筋に軽く力を入れながら息を押し出すイメージで練習し、喉はあくまで「通路」として意識する。
失敗④:喉の痛みが続く
原因:声帯に炎症が起きている可能性がある。
対処法:すぐに練習をやめ、2〜3日は発声を避ける。痛みが1週間以上続く場合は耳鼻咽喉科(声帯専門)を受診する。自己判断での無理な継続は厳禁。
デスボイス上達を加速させる習慣と生活管理
発声技術の習得は、練習時間だけでなく日常生活の習慣が大きく影響します。プロのヴォーカリストが実践している生活管理のポイントをまとめます。
声のコンディション管理
- 水分補給:1日1.5〜2L程度の水分を摂る。カフェイン・アルコールは声帯の乾燥を促進するため摂りすぎに注意
- 睡眠:声帯の回復には睡眠が不可欠。7時間以上を目安に確保する
- 加湿:室内湿度50〜60%を保つ。乾燥した環境は声帯粘膜にダメージを与える
- 禁煙:喫煙は声帯粘膜への直接的なダメージとなるため、上達の大きな妨げになる
効率的な練習スケジュールの例
| 時間帯 | メニュー | 目安時間 |
|---|---|---|
| 練習開始前 | 水分補給・リップトリル・5トーンスケール | 10〜15分 |
| 前半 | ボーカルフライ→グロウル移行練習 | 10〜15分 |
| 後半 | フレーズ応用・楽曲合わせ | 10〜15分 |
| クールダウン | ため息発声・ハミング・沈黙 | 5〜10分 |
1日の実質的な練習時間は30〜45分程度が適切です。それ以上続けると喉への蓄積疲労が大きくなります。毎日継続することが量より重要です。
独学の限界とプロ講師に習うメリット
デスボイス・グロウルはYouTubeや書籍でも情報を集めることができます。しかし、発声に関わる身体の動きは「正しく見えているけれど感覚がズレている」ことが多く、独学では喉を傷めているサインに気づきにくいという構造的な問題があります。
独学とレッスンの比較
| 項目 | 独学 | プロ講師によるレッスン |
|---|---|---|
| フィードバック | 自己判断のみ | リアルタイムで的確な修正が可能 |
| 喉の安全管理 | 痛みが出るまで気づきにくい | 力みや悪習慣を早期に発見できる |
| 習得スピード | 3〜6ヶ月以上かかることが多い | 方向性が正しければ1〜3ヶ月で基礎習得も |
| コスト | 機材費のみ(月0〜数千円) | 月1〜3万円前後(教室による) |
| モチベーション維持 | 停滞期に挫折しやすい | 定期的なフィードバックで継続しやすい |
特にデスボイス・グロウルは「間違った力みグセ」が一度ついてしまうと修正に時間がかかります。最初の段階から正しい感覚を身につけることが、結果的に最も早い上達への近道です。
コアミュージックスクールのボーカル講座では、クラシカルな発声からポップス・ロック系の歌唱まで、幅広いスタイルに対応しています。デスボイス・グロウルの習得を目指す方のご相談も受け付けていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
まとめ:喉を守りながら着実に上達するために
デスボイス・グロウルは、正しい知識と段階的な練習があれば喉を壊さずに習得できる発声技術です。この記事で解説した内容を改めて整理します。
- デスボイス・グロウルは仮声帯と咽頭の活用が核心であり、声帯を酷使する発声ではない
- ウォームアップ・腹式呼吸・ボーカルフライの順に土台を作る
- 1日の練習時間は30〜45分以内を目安にし、痛みがあればすぐ休む
- 録音して客観的に聴くことで上達スピードが上がる
- 生活習慣(水分・睡眠・加湿)の管理が発声技術と同じくらい重要
- 独学で行き詰まったら、早めにプロ講師に相談することで遠回りを防げる
デスボイスの練習に興味はあるけれど、何から始めればいいかわからない方や、独学でなかなか上達しない方は、一度プロの講師に話を聞いてみることをおすすめします。
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