DTMで作るシティポップサウンド|コード進行・音色・ミックスを完全解説

DTM・作曲

はじめに:なぜ今シティポップなのか

2020年代に入り、シティポップは世界的なリバイバルブームを迎えています。竹内まりや「Plastic Love」がYouTubeで数千万回再生を記録し、Dua LipaやThe Weekndなど海外アーティストもシティポップからの影響を公言するほどです。

シティポップの魅力は、洗練されたコード進行、きらびやかなシンセサウンド、心地よいグルーヴの三位一体にあります。1980年代の日本で花開いたこのジャンルは、AOR、ファンク、フュージョン、ディスコなど様々な洋楽の要素を日本独自のセンスでブレンドしたものです。

この記事では、DTMでシティポップサウンドを再現するための具体的な手法を、コード進行、リズム、シンセ音色、ギター、ベース、ミックスまで徹底的に解説します。DAW上で実際に打ち込みながら読み進めていただければ、記事を読み終える頃にはシティポップトラックの骨格が完成しているはずです。

シティポップを定義する5つのサウンド特徴

まず、シティポップを構成する音楽的要素を整理しましょう。闇雲に「それっぽい」音を並べるのではなく、ジャンルの本質を理解することが、説得力のあるトラックを作る第一歩です。

要素 特徴 代表曲での例
コード進行 9th・maj7・dim・aug多用、ツーファイブ進行 竹内まりや「Plastic Love」のサビ
リズム 16ビートファンク、ハーフタイム、4つ打ちディスコ 山下達郎「SPARKLE」のドラムパターン
シンセサウンド DX7風FM、Juno系パッド、エレピ(Rhodes/Wurlitzer) 角松敏生のきらびやかなシンセブラス
ギター カッティング奏法、クリーントーン、コーラスエフェクト 大貫妙子「4:00A.M.」のギターワーク
ベース スラップ、16分音符のファンキーなフレーズ 杏里「Remember Summer Days」のベースライン

コード進行5パターン:シティポップの「おしゃれ感」の正体

シティポップの最大の特徴はテンションコードの多用です。通常のメジャー/マイナーコードに9th、11th、13thなどのテンションノートを加えることで、あの独特の「都会的な浮遊感」が生まれます。

パターン1:王道ツーファイブワン(IIm7 → V7 → IMaj7)

ジャズの基本進行であるツーファイブワンは、シティポップの最も基本的なコード進行です。Key=Cの場合:

Dm9 → G13 → CMaj9

ポイントは、単なるDm7ではなくDm9、G7ではなくG13、CMaj7ではなくCMaj9と、すべてのコードに9thを加えることです。これだけでサウンドが一気にシティポップらしくなります。

DAWでの打ち込み方:

  • Dm9:D-F-A-C-E(ルートから9thまで5音。ボイシングは3rd-5th-7th-9thを右手、ルートをベースに分割)
  • G13:G-B-D-F-A-E(13th=Eを最上部に配置すると開放感が出る)
  • CMaj9:C-E-G-B-D(Maj7の上に9thを重ねる。最も明るく安定したサウンド)

エレピ(Rhodes系)でこの進行を弾くと、それだけで1980年代の東京の夜景が浮かぶようなサウンドになります。

パターン2:マイナーセブンス平行移動(Im7 → bVIIMaj7 → bVIMaj7 → V7)

コードを半音〜全音ずつ下降させるクリシェ的な進行です。Key=Amの場合:

Am9 → GMaj9 → FMaj9 → E7(b13)

この進行の美しさは、トップノートが滑らかに下降していく点にあります。Am9のE→GMaj9のD→FMaj9のC→E7のG#と、メロディアスな動きが自然に生まれます。竹内まりや「September」やオメガトライブの楽曲でよく聴かれるパターンです。

パターン3:サブドミナントマイナー借用(IMaj7 → IVMaj7 → IVm7 → IMaj7)

メジャーキーの中にサブドミナントマイナー(IVm7)を借用する進行です。Key=Cの場合:

CMaj9 → FMaj9 → Fm9 → CMaj9

FMaj9からFm9への変化が、明るさの中に一瞬の切なさを生み出します。これがシティポップ特有の「甘酸っぱさ」の正体です。山下達郎「RIDE ON TIME」のサビでこのテクニックが効果的に使われています。

打ち込みのコツ:FMaj9→Fm9の切り替えでは、A(長3度)→Ab(短3度)の半音変化だけです。DAW上ではMIDIノートを1つ半音下げるだけなので、手軽に試せます。

パターン4:ディミニッシュ経過和音(IMaj7 → #Idim7 → IIm7 → V7)

クラシック音楽由来のディミニッシュ経過和音をポップスに取り入れたパターンです。Key=Cの場合:

CMaj9 → C#dim7 → Dm9 → G13

CMaj9からDm9への移行にC#dim7を挟むことで、クロマチック(半音階的)な上行が生まれ、非常にスムーズで洗練された進行になります。角松敏生やカシオペアなどのフュージョン寄りのシティポップで多用されます。

パターン5:分数コード(オンコード)活用(IMaj7/III → IVMaj7/V → V7sus4 → V7)

ベース音をコードのルート以外に設定する分数コードを活用するパターンです。Key=Cの場合:

CMaj7/E → FMaj7/G → G7sus4 → G7

分数コードの効果はベースラインの滑らかな連結です。E→G→G→Gと、ベースが跳躍せずに推移するため、柔らかで上品なサウンドになります。松原みき「真夜中のドア」のイントロにこのテクニックが見られます。

リズムセクション:16ビートグルーヴの作り方

ドラムパターンの基本

シティポップのドラムは16ビートのファンクグルーヴが基本です。特徴的なのは、ハイハットの細かい刻みとスネアのゴーストノートです。

基本パターン(BPM: 108〜120):

1 e & a 2 e & a 3 e & a 4 e & a
キック X X X X
スネア X X
HH x x x x x x x x x x x x x x x x

ハイハットは16分音符で均一に刻みますが、ベロシティに変化をつけるのが重要です。拍の頭(1、2、3、4)を100、裏拍(e、a)を60〜70、&を80程度にすると、人間的なグルーヴが生まれます。

ゴーストノートの追加

プロのシティポップドラムを再現するうえで欠かせないのがスネアのゴーストノートです。スネアの正規の位置(2拍目・4拍目)以外に、ベロシティ20〜40の極弱いスネアヒットを16分音符の隙間に配置します。

具体的には、1拍目のa(16分音符4つ目)と3拍目のe(16分音符2つ目)にゴーストノートを入れると、一気にプロっぽいグルーヴになります。

ハーフタイムシャッフルの応用

山下達郎の楽曲でよく聴かれるハーフタイムシャッフルも、シティポップの定番リズムパターンです。これはJeff Porcaroが広めた手法で、16ビートの3連符的なニュアンスを取り入れたもの。DAWではスウィング設定を55〜60%にすると近い感覚が得られます。

シンセサウンドの作り方:DX7からJunoまで

FM音色(DX7風)の再現

シティポップのきらびやかなシンセサウンドの代表格が、YAMAHA DX7によるFM音色です。特にエレピ、ベル、ブラスの音色がシティポップのアイコニックなサウンドです。

おすすめFM音源(無料〜有料):

音源名 価格 特徴 おすすめ用途
Dexed 無料 DX7完全互換のFMシンセ。実機のパッチをそのまま読み込み可能 FM音色全般
Arturia DX7 V 約15,000円 DX7のモデリング+現代的なエフェクト搭載。GUIが使いやすい エレピ・ベル
Native Instruments FM8 約20,000円 8オペレーターの拡張FM。プリセットが充実 ブラス・パッド
Korg opsix native 約20,000円 6オペレーターFM+フィルター。モダンな音作りが可能 パッド・リード

DX7風エレピの作り方(Dexed使用)

シティポップで最も頻出するFM音色がエレピ(E.PIANO)です。Dexedで作る手順を解説します。

  1. アルゴリズム選択:アルゴリズム5(2つのキャリア+モジュレーター構成)を選択
  2. オペレーター1(キャリア):レシオ=1.00、レベル=90。基本のサイン波
  3. オペレーター2(モジュレーター):レシオ=14.00、レベル=50。高倍音を加えて金属的な響きを作る
  4. エンベロープ:アタック速め、ディケイはミディアム、サスティン低め。ピアノのように「ポーン」と減衰する設定に
  5. ベロシティ感度:高めに設定。強く弾くと倍音が増え、弱く弾くと柔らかい音に

さらに、DAWのエフェクトチェーンでコーラス → ステレオディレイ(BPM同期1/8) → プレートリバーブを順にかけると、あの80年代特有のきらびやかなエレピサウンドが完成します。

Juno系アナログパッドの再現

Roland Juno-60/106のパッドサウンドも、シティポップの定番です。温かく広がりのあるストリングス風パッドが、楽曲に心地よい空間を与えます。

再現のポイント:

  • ノコギリ波2基をデチューンして重ねる(Juno特有の厚み)
  • ローパスフィルターのカットオフを中程度に設定し、レゾナンスは控えめ
  • コーラスエフェクトを深めにかける(Juno内蔵コーラスの再現)
  • リリースタイムは長め(800ms〜1.2s)で、音が余韻を持って消えるように

無料で使えるTAL-U-NO-LXやDiva(有料)が再現度の高い音源です。

エレピサウンドの使い分け

シティポップでは複数のキーボードサウンドを重ねて使うのが一般的です。

音色 役割 音量バランス パン
Rhodes(FM or サンプル) メインのコードバッキング 中〜大 やや左(L30)
Wurlitzer リフやフィルイン 小〜中 やや右(R30)
アナログパッド(Juno系) 背景の空間を埋める 広めのステレオ
DX7ベル/マリンバ トップノートのアクセント 極小 センター〜やや右

ギターカッティングの打ち込み方

シティポップのギターといえば、クリーントーンのカッティング奏法です。16分音符の刻みをブラッシング(ミュート)と実音で組み合わせた、歯切れの良いリズムギターがトラックを推進します。

カッティングの基本パターン

カッティングをMIDIで打ち込む際のポイントは以下の通りです。

  • 実音:ベロシティ80〜100、ノート長は16分音符の60%程度(スタッカート気味)
  • ブラッシング:ベロシティ30〜50、ミュートのキースイッチ(音源による)またはノイズサンプル
  • アクセント:2拍目と4拍目の&(裏の裏)にやや強めの実音を配置

コードは3〜4音のヴォイシングで、ルート音は含めないのがポイントです(ベースがルートを担当するため)。9thや13thを最上部に置くと、シティポップらしい浮遊感が出ます。

エフェクト設定

シティポップのギターサウンドに欠かせないエフェクトは以下の3つです。

  • コーラス:モジュレーションレート0.5〜1.0Hz、デプス30〜50%。Boss CE-1/CE-2の再現が理想
  • コンプレッサー:レシオ4:1、アタック速め。カッティングの粒を揃える
  • ステレオディレイ:左右で異なるディレイタイム(例:L=1/8、R=1/8dot)。空間の広がりを演出

おすすめギター音源

カッティング奏法の再現度が高い音源を紹介します。

  • Ample Guitar SC:ストラトキャスター系。カッティングのキースイッチが充実。無料版のAGMLもあり
  • MusicLab Real Strat:自動カッティングパターン機能搭載。打ち込みが楽
  • Native Instruments Session Guitarist:フレーズベースで手軽にリアルなカッティングが得られる

ベースラインの作り方

シティポップのベースは、ファンク由来の16ビートグルーヴメロディックなフレーズが共存するのが特徴です。

スラップベースの打ち込み

シティポップを象徴するスラップベースをDTMで再現するコツは以下の通りです。

  • サム(親指で叩く):低音弦のルート音。ベロシティ100〜120、アタック強め
  • プル(人差し指で引っ張る):高音弦のオクターブ上。ベロシティ110〜127、短いノート
  • ゴーストノート:ミュートした状態で弦を叩く。ベロシティ20〜40

サム→ゴースト→プル→ゴーストの16分音符パターンが基本型です。

フィンガーベースのフレージング

スラップだけでなく、Aメロやバラード調のセクションでは指弾きのベースラインも効果的です。ルート音から3度・5度・オクターブを経過音として使い、コードトーンを滑らかに繋ぎます。クロマチックアプローチ(半音で目標音に到達する)を入れると、フュージョン的な洗練された雰囲気になります。

ミックスのコツ:80年代サウンドと現代の融合

リバーブ処理

シティポップのミックスで最も重要なのはリバーブの使い方です。80年代はプレートリバーブとゲートリバーブが多用されましたが、現代の耳で聴くとやや古臭く感じることも。以下のバランスがおすすめです。

パート リバーブタイプ ディケイ Mix量
ドラム プレート or ルーム 0.8〜1.2s 15〜25%
エレピ プレート 1.5〜2.5s 20〜30%
ギター プレート + ディレイ 1.2〜2.0s 15〜25%
ボーカル プレート + ホール 1.8〜3.0s 20〜35%
シンセパッド ホール 2.5〜4.0s 25〜40%

EQ処理のポイント

シティポップのミックスでは、中高域(2kHz〜8kHz)の透明感が重要です。

  • エレピ:200Hz付近を軽くカットして濁りを除去、3kHz付近をブーストしてきらびやかさを強調
  • ギター:100Hz以下をハイパスでカット、5kHz付近をシェルビングでやや持ち上げ
  • ベース:80Hz付近に芯を残し、800Hz〜1kHzを軽くカットして他のパートとの干渉を避ける
  • ドラム全体:10kHz以上をシェルビングブーストしてエアー感を出す。80年代風にしたければ逆にここを抑える

コンプレッション

80年代のレコーディングでは、SSL G系のバスコンプが多用されました。2mixバスに軽いコンプ(レシオ2:1〜4:1、リダクション2〜3dB程度)をかけると、パーツがまとまり、あの時代特有の「密度のあるサウンド」が再現できます。

テープサチュレーション

最後の仕上げとして、テープサチュレーションを全体にうっすらかけると、デジタル臭さが和らぎ、アナログ的な温かみが加わります。Waves J37 Tape、Softube Tape、UAD Ampex ATR-102などが定番です。無料ではChow Tape Modelが優秀です。

制作フロー:ゼロからシティポップを1曲作る手順

ここまでの知識を統合して、実際の制作フローを紹介します。

  1. テンポ設定:BPM 108〜120に設定。シティポップは速すぎず遅すぎないミディアムテンポが基本
  2. コード進行:上記5パターンからAメロ・Bメロ・サビそれぞれに選択。サビにサブドミナントマイナー借用を入れると効果的
  3. ドラム:16ビート基本パターンを打ち込み、ゴーストノートを追加
  4. ベース:ルート中心のフレーズから始め、経過音やスラップを加える
  5. エレピ:Rhodes系でコードバッキング。リズムはギターカッティングと被らないようにする
  6. ギター:カッティングパターンを配置。エレピと交互にリズムを刻む
  7. シンセパッド:Juno系パッドでロングトーン。背景の空間を埋める
  8. メロディ:ペンタトニック+テンション(9th、#11th)でシティポップらしいメロディを作成
  9. ミックス:上記のリバーブ・EQ・コンプ設定を適用

まとめ:シティポップは「引き算の美学」

シティポップの制作で最も大切なのは、すべてのパーツが心地よく共存するバランス感覚です。テンションコードの響き、16ビートのグルーヴ、きらびやかなシンセ、歯切れの良いギターカッティング——これらの要素を過不足なく配置することが、良質なシティポップトラックの条件です。

派手なエフェクトや複雑なアレンジに頼るのではなく、ひとつひとつの音色とフレーズを丁寧に磨き上げる。それがシティポップの「大人の美学」です。

野口 悟

野口 悟(Eg・Ag・ウクレレ・DTM(logic)/作曲技法・音楽理論担当)
シティポップは「知識」と「センス」の両方が試されるジャンルです。コード理論の裏付けがある分、理論を学ぶモチベーションにもなりますよ。レッスンでは実際にLogicで1曲作りながら、テンションコードの響きやFM音色の作り方を体験していただいています。80年代の名曲を分析しながら作るのは本当に楽しいですよ!

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