DTMでストリングス(弦楽器)を打ち込むコツ|豊かなサウンドを作る

DTM・作曲

はじめに:ストリングスが楽曲に与えるインパクト

ストリングス(弦楽器セクション)は、楽曲に感動的な広がり、緊張感、温かみを加えることができる最も表現力豊かなパートです。ポップスのサビを壮大にしたい、映画音楽のような荘厳なサウンドを作りたい——そんなとき、ストリングスの打ち込みスキルが必要になります。

しかし、ストリングスはピアノ以上に打ち込みが難しいパートです。本物のオーケストラは数十人の奏者が、それぞれ微妙に異なるタイミング・ピッチ・ビブラートで演奏しています。これをDAW上で再現するには、音源の選び方からアーティキュレーション、ボイシングまで、体系的な知識が必要です。

ストリングスの基本編成と音域

オーケストラのストリングスセクションは、以下の5つのパートで構成されます。

パート 略称 音域 人数(標準) 役割
第1バイオリン Vn1 G3〜E7 14〜16名 メロディ、最も高い音域
第2バイオリン Vn2 G3〜E7 12〜14名 ハーモニー、カウンターメロディ
ビオラ Va C3〜C6 10〜12名 内声(ハーモニーの中間)
チェロ Vc C2〜C5 8〜10名 低音のメロディ、ベースライン
コントラバス Cb E1〜G3 6〜8名 最低音、土台

ポップスやDTMでは、5パート全てを使わなくても大丈夫です。最小構成ではVn1 + Vcの2パートだけでも十分ストリングスらしいサウンドが得られます。3パートならVn1 + Va + Vcがバランス良好です。

アーティキュレーションの種類と使い分け

ストリングスの表現力の鍵を握るのがアーティキュレーション(奏法)です。同じ音でも奏法を変えるだけで、まったく異なる印象になります。

アーティキュレーション 説明 主な用途 打ち込みのコツ
ロングノート(サスティン) 弓で長く弾く基本奏法 パッド的なハーモニー、荘厳な響き ノート長を100%にし、CC1で音量を制御
レガート 音と音を滑らかにつなげる メロディライン、叙情的なフレーズ ノートを重ねる(オーバーラップ)。モノフォニック設定推奨
スタッカート 短く弾く リズミカルなパッセージ、緊迫感 ノート長を20〜40%に。ベロシティで強弱を
スピカート 弓を弦からバウンドさせて弾く 軽快な刻み、ファンタジー感 スタッカートより短く(10〜25%)。軽めのベロシティ
ピチカート 弦を指で弾く 可愛い・ポップな表現、間奏のアクセント ノート長は短め。ベロシティで音色変化
トレモロ 弓を高速で往復させる 緊張感、不安、クライマックスの盛り上げ ロングノートで配置。CC1でダイナミクス制御
トリル 2音を高速で交互に弾く 装飾的なアクセント、興奮の表現 音源のキースイッチで切り替えるのが楽
コル・レーニョ 弓の木の部分で弦を叩く ホラー、実験音楽 対応音源が限られる。乾いたパーカッシブな音

ストリングスのボイシングルール

ストリングスのボイシング(音の配置)には、美しく響かせるためのルールがあります。

ルール1:低音域は広く、高音域は密に

低い音域ほど音の間隔を広くし、高い音域ほど密集させると自然に響きます。これは「倍音列」に基づく物理的な法則です。

  • コントラバス〜チェロ(低域):オクターブや5度で広く
  • ビオラ〜バイオリン(中〜高域):3度や4度で密に

ルール2:声部間の音程は基本的に6度以内に収める

隣り合うパート間の音程が離れすぎると、音が分離して一体感がなくなります。特にVn2とVaの間は6度以内に収めるのが目安です。

ルール3:声部の交差を避ける

Vn2がVn1より高い音を弾いたり、VaがVn2より高い音を弾いたりする「声部の交差」は、音の分離が悪くなるため原則避けます。ただし、意図的な効果として使う場合は例外です。

ルール4:ユニゾンとオクターブを効果的に使う

Vn1とVn2をオクターブユニゾンにすると、メロディに厚みと力強さが加わります。クライマックスでは全パートオクターブユニゾンにする手法も効果的です。

CC1(モジュレーション)によるダイナミクス制御

ストリングス音源の多くは、CC1(モジュレーションホイール)で音量とダイナミクスを制御します。ベロシティではなくCC1が主な音量コントロールになる点が、ピアノやドラムとの大きな違いです。

CC1の基本的な使い方:

  • フレーズの始まり:低い値(40〜60)から始めてクレッシェンド
  • フレーズのピーク:80〜110程度
  • フレーズの終わり:徐々に下げてディミヌエンド
  • アクセント:瞬間的にCC1を上げて即座に戻す

CC1のオートメーションをなめらかなカーブで描くのがコツです。急な変化は不自然に聞こえるので、2〜4拍かけてゆっくり変化させましょう。

CC11(エクスプレッション)との使い分け

多くの音源では、CC1とCC11(エクスプレッション)の2つでダイナミクスを制御できます。

  • CC1:音色そのものが変わる(pp→ffで音色が明るくなる)。楽曲全体のダイナミクスカーブに使用
  • CC11:音量だけが変わる(音色は変わらない)。フレーズ内の細かい抑揚に使用

この2つを組み合わせることで、より繊細な表現が可能になります。

おすすめストリングス音源比較

音源名 容量 音色傾向 価格帯 おすすめ用途
Spitfire Audio Spitfire Symphony Orchestra 約90GB 豊かなホールの響き。映画音楽に最適 約80,000円 映画音楽・壮大なオーケストラ
Cinematic Studio Strings (CSS) 約26GB 自然なレガート。コスパ最強 約40,000円 オールジャンル。特にレガートが秀逸
Berlin Strings (Orchestral Tools) 約50GB 精密で透明感のあるサウンド 約50,000円 クラシック・劇伴
Spitfire BBCSO Core 約30GB BBC交響楽団の本物の響き 約30,000円 オーケストラ入門・教育用にも
Session Strings Pro 2 (NI) 約12GB ポップス向きの軽やかなサウンド 約20,000円 ポップス・R&B
Spitfire LABS Strings 約0.5GB 温かくローファイなニュアンス 無料 Lo-Fi・スケッチ用

ポップスでのストリングスアレンジ実践

オーケストラ全編成ではなく、ポップスの中でストリングスを使う場合のアレンジ例です。

パターン1:ロングトーンパッド

最もシンプルな使い方。コードの構成音をVn1、Va、Vcの3パートに分配して、全音符〜2分音符のロングトーンで演奏させます。サビの背景に壮大さを加えたいときに最適です。CC1でゆっくりクレッシェンドさせるとドラマチックに仕上がります。

パターン2:カウンターメロディ

Vn1でボーカルの合間を縫うカウンターメロディを弾かせるパターンです。ボーカルが伸ばしているときにストリングスが動き、ボーカルが動いているときにストリングスは伸ばす——この「対話」がプロのアレンジです。

パターン3:リズミカルなスタッカート

8分音符や16分音符のスタッカートで刻むパターン。楽曲にスピード感と緊張感を与えます。映画のアクションシーンやEDMのビルドアップでよく使われます。

ストリングス打ち込みの実践ステップ

Step 1:メロディとコード進行を確認

ストリングスで何を担当させるかを明確にします。メロディを弾くのか、ハーモニーのパッドなのか、カウンターメロディなのかで、打ち込み方がまったく異なります。

Step 2:ボイシングを設計

各パートの音を決めます。前述のボイシングルールに従い、低音は広く、高音は密にしましょう。

Step 3:アーティキュレーションを選択

フレーズごとに適切なアーティキュレーションを選びます。レガートとサスティンを基本に、アクセントにスタッカートやピチカートを混ぜると表情豊かに。

Step 4:CC1/CC11のオートメーションを描く

ベロシティだけでなく、CC1(モジュレーション)のオートメーションを丁寧に描きます。これがストリングス打ち込みの最も重要な工程です。

Step 5:ヒューマナイズ

タイミングを±5〜20ティック程度ランダムにずらします。特にパートごとにわずかにタイミングをずらすと、アンサンブルの「厚み」が出ます。

まとめ

ストリングスの打ち込みは、DTMの中でも奥が深い分野ですが、基本を押さえれば初心者でも十分に魅力的なサウンドを作ることができます。

  • 5パートの編成と音域を理解する
  • アーティキュレーションを使い分ける
  • CC1のオートメーションで表情をつける
  • ボイシングルールを守って美しいハーモニーを作る
  • 用途に合った音源を選ぶ
野口 悟

野口 悟(Eg・Ag・ウクレレ・DTM(logic)/作曲技法・音楽理論担当)
ストリングスは「CC1のオートメーション」が全てと言っても過言ではありません。ベロシティだけでコントロールしようとしている方が多いですが、CC1を使いこなすだけで一気にプロの音になります。レッスンでは実際のオーケストラ楽曲を参考にしながら、各パートの打ち込みを実践しています。

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